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第72期王将戦第2局

大阪府高槻市で行われた藤井聡太王将と挑戦者羽生善治九段第72期王将戦第2局は、先手番の羽生九段が勝利を収めた。

第1局は途中までかなりいい勝負だったのを終盤で藤井王将の自力に競り負けた感があるので、若干のリードで迎えた本局2日目は、羽生九段にとっては相当に神経を使う闘いであったと思う。

1日目に、持駒の金をソッポのような場所に打つ羽生九段の奇手が出た。AIが示す最善手ではあったが、まず人間には浮かびづらい手で、羽生九段がこれを左程時間を使わず指したことから、研究ではないかとの声も挙がった。

藤井王将にとって想定内だったのかどうか分からないが、これに対する応手が難しく、AIが最善と示す手は、持ち駒の飛車角を自陣の効きの悪い場所に打つ、受け一方で悉く人間には指しづらい手ばかりで、さしもの藤井王将も指せず、攻勢に出たが、羽生九段にきっちりと間合いを見切られて及ばず投了となった。

人間の感覚では、「たとえこれ以外の手は全て負けだとしても、こんな手だけは指せない」と思うのも無理がない。藤井王将の棋士としての美意識が許さなかったのだろう。逆に言えば、そんな手を指さなければ負けという局面に持ち込まれた時点で、既に勝負はついていたのだと言っても良い。

羽生九段にとっては完勝譜といえるのではないか。2日制勝負では普段以上の驚異的な強さを見せる藤井王将相手にこのような勝利を収めることができるとは、羽生ファンでも予想していた人は少なかったと思われる。

まさに現代将棋の頂点と呼ぶにふさわしい名局だった。

気の早い話だが、この第2局を見れただけでも、このシリーズはもう十分だと思った。

とはいえ今週末には早くも第3局が行われる。今度は先手番となる藤井王将に、羽生九段がどんな将棋で臨むのか。観る者にとっては贅沢すぎる至高の勝負劇はまだ続く。