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結婚前夜

1998年放映の伝説のNHKドラマ結婚前夜を、念願かなってようやく見ることができた。感無量。

感想というと、相変わらず「夏川さん綺麗…」ということになってしまうのだけど、これが本作と同じ野沢尚がシナリオを書いた『青い鳥』から一年も経っていないことからすると、その演技力の向上に目を見張る。

というより、『青い鳥』はわざと棒に振舞ったとしか思えない。結果的にそれが最大の効果を上げたのだから、計算とすれば完璧ということになる。

ユースケがイメージ通りの軽薄な若造を演じているが、むしろこの役が彼のイメージを決定づけたといえるのではないか。この後に再び夏川さんと共演する『あなたの隣に誰かいる』というドラマでも息の合った夫婦ぶりだったので、いつかまた共演してほしい一人だ。

そして、結婚相手のユースケの父親である50過ぎの中年作家を演じているのが橋爪功。彼が下町の内気なガラス職人の娘だった奈緒(夏川さん)にイイ女になる教育を施し、未知の世界を体験させてくれた奈緒がすっかり男に入れ込んでしまうという設定。

橋爪功は『菊亭八百膳の人びと』での夏川さんのお父さん役の印象が強かったので、恋の対象としては多少の違和感があったが、今の『無理な恋愛』よりは遥かに無理がなく見れた。

無理な恋愛」の正午(堺正章)は娘のような年下の女を本気で思慕していて、どうしても気持ち悪さがつきまとうが、高杉楯夫(橋爪)はあくまでも奈緒を一歩引いた立場から保護者的な眼で見ているから、見ちゃいけないものを見ているような生生しさを感じないからだと思う。

正午と楯夫はちょうど逆だ。正午は、表向きはかえでのよき理解者であるかのように振舞いながら、内心ではかえでを女として激しく欲している。楯夫は、プレーボーイ風に奈緒を女として扱っているように見えても、心の奥では諦念を抱いていて、いまさら人生に急ブレーキをかけることは無理だと悟っている。 どっちが男として正しいかどうかは分からないが、少なくとも正午の満たされない欲望は見ていてキモい。

60過ぎて10代の少女に本気で恋をしたゲーテのように、はたまた実の娘に欲情する危険な父親ゲンズブール並みに、芸術的衝動に昇華でもできれば話は別だが、大衆の欲望を相手にするだけのテレビドラマにそんなものは望めないし。

けっきょく、奈緒は高杉雅人(ユースケ)との結婚前夜に、家を抜け出して楯夫に会い、彼の愛を要求して、激しく迫る。

これから見る人がいるかもしれないのでネタバレは避けるが、シナリオ的にはここからがこのドラマの最大の見どころである。夏川さんの演技も冴えていて凄味がある。

しかし個人的には、メガネっ娘奈緒が息を呑む美女に変身していくマイフェアレディ・プロセスが楽しかった。第3話でのドレス姿には、ため息と同時に感激の涙が出た。

その他にも余貴美子との女の闘いなど名シーンも目白押しで、まさに野沢尚という逝去された優れたシナリオライターの代表作といって過言でない。

これほどいい作品が未だにDVD化されていないことが残念でならない。