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SRサイタマのラッパー3

正直、観るべきか否かかなり迷ったのだが、評判が非常に高く、ライムスター宇多丸氏が「シネマハスラー」で激賞していたこともあり、映画『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を新宿で観る。

観るかどうか迷った理由は、以前やはり宇多丸氏が激賞し、映画ファン(の一部?)の間で評価が高かった、園子温監督の『冷たい熱帯魚』を見てひどく後悔した過去があるからだ。その感想はこのブログにも書いたが、露悪的ともいえるハードな暴力描写や過激なシーンが僕には嫌悪感しかもたらさなかった。

今回の『サイタマのラッパー3』にもハードな暴力描写があると聞いたので、同じようなことになるんじゃないかという懸念があった。

結論から言うと、そういうシーンは思ったほど辛くはなかったが(あらかじめ覚悟していったせいもあるだろう)、当たりかはずれかと問われたら、僕にとっては「はずれ」だった。

もちろん映画に求めるものは観客一人ひとりにとって違うので、一人の感想は別の人にはまったく当てはまらない。こんな当たり前のことを確認した上で、僕の感想を書く。

(以下ネタバレあり)

 

 

多くの人にとってもそうだろうが、僕が何のために映画を見るかといえば、やはり感情的なカタルシスを得るためが第一だ。簡単にいえば、観た後に「すっとする」かどうか、すっきりした気分で映画館を後にできるか、というのが一番重要なことである。

観客に考えさせる問題提起型のドキュメンタリーも嫌いではないが、それはまたジャンルが違うので同列には扱えない。

僕にとって「サイタマのラッパー3」は、ストーリーが暗すぎた。おまけに主人公にまったく感情移入できなかった。映画の世界観にも入り込めなかった。

僕はこのシリーズの1、2作目を見ていないので、登場人物に対する思い入れはまったくない状態で観た。そういう目からは、主人公がまったく常軌を逸した行動を繰り返しているようにしか思えなかった。

確かに、2年間憧れのラップグループで下働きをした挙句、やっと掴んだチャンスを心ない先輩にあっさりと掌返しされた主人公の悔しさは分かる。しかし、あそこであそこまで爆発するのはちょっと(?)な気がした。溜まりに溜まったものが噴出したと解釈するしかないが、それにしてはもう少し前フリが必要ではないか。まがりなりにも2年間彼らの下で働いてきたわけだし、その程度のことをする奴らだということくらい分かりませんか。第一、あの後、逃げ切れるわけがない!!と思うだけで少し熱が醒めた。

でもまあ最初の逃亡まではいい。次に、主人公は栃木で本当にどうしようもない悪い連中と一緒に仕事をすることになるが、その環境でそれなりに上手く立ちふるまっている描写が出てくる。(しかしあの「ドレイゴヤ」には噴いた。搾取のカリカチュアとしてはお粗末。)

やがてその悪い連中が地元のヒップホップ・フェスティバルを企画し、主人公もその一員として働く。ここで、前シリーズのもう二人の主役たちが登場し、闇に手を染めた主人公と好対照をなす展開となる。この二人は、地元で仲間を見つけて盛り上がるなど、明るくにぎやかなエピソードを提供するのだが、前半の闇があまりに深すぎて、映画のトーンを中和するには足りない感じがする。

詳細は省くが、主人公は、同棲相手に対する仕打ちに怒って、さらに衝動的な暴力行為を行う。この経緯もまあ分からなくはない。ただ主人公自身も相当な犯罪行為に加担し続けている男なわけで、そんなに同情する気にはなれない。あと細かい話だが、被害の程度が映画の最後のシーンで明らかになるが、あの武器と殴り方と出血の程度から考えて、全治2か月ということはありえないんじゃないか。それにあの場面で被害者は2人だよね。その後も鈍器で人を殴るシーンがあるし。

主人公の第二の逃亡が始まる。ここからが映画のクライマックス。この部分の撮影はずっと長回しで、スタッフの力量には感嘆する。シーン全体も映像的に信じられないくらい見事にできている。ただし、主人公の暴れ方が酷過ぎるのと、逃げ方が上手すぎるのと、止めに入る周囲の人々の動きが不自然すぎるのと、これまで述べたような経緯から、どうしても感情移入できないため、醒めた見方になってしまう。

そして最後の留置場の場面。あれはおそらく警察署の代用監獄でも刑務所でもなく、拘置所のイメージだと思うが、立会警察官が無能すぎて、まったくリアリティがない。あんだけ騒いでも面会中止にならないという設定が虚構すぎるため、本来なら一番感動的なはずのラストの主人公たちのラップがひたすら居心地悪くしか響かなかった。

以上、せっかく観た以上少しでも元を取りたい気持ちからくどくどと感想を述べてきたが、正直、すぐにでも忘れてしまった方がいい映画だった。こんなことなら宇多丸氏の「シネマハスラー」を聞くだけにしておけばよかった。(シネマハスラー自体はすごく面白かった。)

しかし宇多丸氏は、本職がラッパーだけに、フリースタイルやラップのシーンのリアリティにひどく敏感なのは分かるが、暴力シーン(鈍器で枢要部を全力で殴っても死んだり重傷を負ったりしない)や拘置所の面会シーンの不自然さは気にならないのだろうか。まあ最初に言ったように、どう感じるかは人それぞれなので全然OKなのですが。