高円寺の古本屋でみうらじゅん『アイデン&ティティ』という漫画を300円で買って読んだ。
以前みうらじゅんの『自分なくしの旅』という自伝的小説を読んで面白かったが、この漫画もその系統に属するみうらの「青臭い」作品だった。
本物の「ロック」を求めて葛藤する主人公が、天啓のように現れる「ボブ・ディラン」のイメージ中に救いと導きを求めるという繰り返されるパターンが興味深い。
みうらじゅんは『見仏記』などの仏像めぐりなどでも有名だが、基本的には信仰心というか浄土教的なメンタリティが彼の存在の基盤にあるのではないかという気がした。
迷える自我の投影としての救済者であるボブ・ディランや、馬鹿でどうしようもない彼を優しく見守る恋人の存在が『アイデン&ティティ』の世界を支えている。
その後みうらは、「すべての迷いの根源は<自分>であり、結局のところ<自分>なんて存在しない」という、禅的な悟りの方向に向かったように思われる。後年の自伝『自分なくしの旅』はそのタイトルそのものが禅的な無我の境地への傾倒を表現している。
このまま「煩悩即菩提」の境地まで行けば、みうらの人生は見事な大団円を迎えることになる。
それはもうボブ・ディランでさえ達し得ていない世界だ。
I Threw It All Away / Bob Dylan
かつて僕は彼女を腕に抱いていた
彼女はずっと一緒よと言ってくれた
でもぼくは残酷で
彼女を馬鹿にしてぞんざいに扱った
それを全部捨ててしまったんだ
かつては山々も僕の掌の中にあった
毎日流れる川も
僕は頭がおかしかったにちがいない
自分が何を持っていたのか知らなかったのさ
それを全部捨ててしまうまでは
愛がすべてで、それが世界を動かしている
愛、ただ愛だけだ、それは否定なんてできない
君がどう考えようが
愛なしでは生きていけない
愛なしで生きようとしてみた奴らから学ぶといい
だから、もし君が愛をすべて与えてくれる誰かに出会ったら
しっかりと自分のハートに受け止めて、気を逸らしちゃいけない
ひとつだけ確かなことがある
確実に君は傷つくだろう
もし君がそれを全部捨ててしまったら