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運命の謎

三浦清宏『運命の謎 小島信夫と私』水声社、2021年)という本を読んだ。

小島信夫が「アメリカン・スクール」で芥川賞を取り、アメリカ留学しているときにアイオワ州のポール・イングル教授のセミナーで出会い、帰国後小島の国立の家に半年ほど暮らした。そのときのことが、『抱擁家族』の中に出てくる、山岸青年のモデルが著者である。

小島の斡旋で明治大学の英語教師になり、小島の勧めで小説を書くようになる。小説を書き始めて二十年以上して、『長男の出家』で芥川賞を受賞する。

彼は小説家ではなく詩人になりたくてアメリカに留学した人で、スピリチュアルなものに惹かれる傾向があって、小島の紹介で森敦に会ったとき、「そんなきれいな目をしていて文学ができるのか」と言われたという。

スウェーデンボルグにハマってロンドンの心霊協会で一年を過ごし、参禅にも通うようになる。小島から小説をサボっていると言われ、心霊研究をするから小説は書かないというと叱られた。

そのときの小島の言葉がこれだ。

飛躍しちゃダメだよ。日常生活を相手にするのが文学というものなんだ。身の回りのつまらないこと―あの人はいくらもらっているのに自分はいくらしかもらっていないとか、あの人はそばまで来たのに声をかけないで行ってしまったとか、そんなつまらないことと付き合っていくのが文学なんだ。そういうことしか手掛かりになることはない。いきなり空高く飛び上がろうとしたってダメだ。見えない世界のことは、見える世界を通してしか掴めない。それが小説作りの宿命だ。きみがもう小説を書かないというならそれもよいが、これからも書くつもりがあるなら―いや、ぼくは断言してもいいが、きみが小説を書かなくなることはないと思うね―それならきみは、まず自分を眺めなけりゃならない。霊界じゃない。自分自身だ。それがぼくがいままで口をすっぱくして言ってきたことだし、きみがどうとろうと、ぼくは間違ったことを言ったつもりなはないね