INSTANT KARMA

We All Shine On

第81期名人戦第三局

5月13日、14日に高槻城公演芸術文化劇場で行われた名人戦第三局。

先手・渡辺明名人、後手・藤井聡太竜王

終わってみれば、後手の藤井竜王の動きが悉く裏目に出たような形になり、渡辺名人が僅かな隙を突く順をしっかりと読み切って勝利をものにした。渡辺名人はこれ藤井竜王への苦手意識をある程度払拭でき、手ごたえをつかんだのではないか。

この勝ち方(負け方)は、以降のシリーズに響く気がする。

前に予想した通り、この名人戦の行方は俄然分からなくなってきたように思う。

やはり名人位には特別な重みがある。いくら藤井聡太と言えども、楽にはなれない。

無責任なファンの立場からは、これからが愈々楽しみである。

全体的な感想とすればそんなところだが、この将棋、藤井竜王の勝負師としての若さが垣間見えた部分もあった。

角換わりを避けた後手の藤井から仕掛け、途中までは優勢に進めていた。ところが、14分の小考で角を切った手が、実は思ったより難解な変化を含んでいることに気づいたのか、次の2手に長考を重ねた。

これを見た渡辺が、それまでは不利を自覚していたはずだが、「何かあるのではないか」と気づいて、受けの絶妙手を発見した。

もしこれが勝負師に徹する大山名人のような棋士なら、あんなに長考などせず、ヒョイヒョイと指し、「隠れた絶妙手の存在」を悟らせないように指したに違いない。

そういう意味で、強すぎるゆえの弱みを見せた藤井の態度を察知し、そこに何かを感じて逆転の目を手繰り寄せた渡辺の方がこの対局では一枚上手だった。

もっとも、藤井が勝負に徹することができなかったことは、決して責められるべきことではない。勝負を超えた最善の道を追求する姿勢は寧ろ称えられるべきである。

目の前の勝利よりも(それが名人戦という究極のタイトル戦であっても!)、もっと大きな目標を彼は見据えているということの証なのだから。

何より彼はまだ二十歳なのだ。

今回の敗局によって、むしろ藤井聡太への尊敬は深まることとなった。

 

・・・と書いていたのが渡辺の最後の長考中で、このときなんと渡辺は名人からすれば一目で分かる最後の決め手に93分を投入した。この時間の中で渡辺は何を考えていたのだろうか。

なかなか指せずに苦しんでいる渡辺を見ながら、じつは、昨日の記事に書いた「真っ暗闇の道」を歩んでいたのは渡辺名人だったのではないか、と思った。そうだとすれば猶の事、渡辺にとってこの勝利は大きなものとなったに違いない。