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難解な選択

今日は王将戦第五局を見ていた。先手・藤井聡太王将(五冠)、後手羽生九段。

戦型は後手の羽生九段が横歩取りに誘導した。今期七番勝負では初めてとなる。

羽生は今年度後手横歩取りで7勝3敗と好成績を残しており、満を持しての秘密兵器投入といったところか。

いきなりの飛車角交換となり、横歩取り特有の激しい将棋となる。羽生が交換した角をすぐに盤上に打ち据え、敵陣に飛車を打ち込んで竜を作る。

35手目で前例を離れ、未知の局面を迎えた。藤井が竜を消すために飛車を打ち、再度の交換になった後に羽生が二筋に歩を垂らす。

この手を見て藤井が長考に沈み、昼食休憩をはさんでなんと2時間を投入して桂を跳ねる強手を放つ。

だが実はこれが疑問手で、羽生が的確に対応すれば、難解な変化ながら後手が指せていた。

ところが2時間21分の長考のお返しで羽生が指した手は本命視されていた歩打ちではなく、垂らした歩を成り込む一着であった。これにより再び形勢は藤井に傾く。

銀と桂の両取りに飛車を打った羽生だが、取られそうな桂馬を玉頭に成り捨てる藤井の手を見てしばらく熟考した羽生が、封じ手の意思を示した。

明日の午後には勝敗の行方がはっきりするだろう。

 

ーーーなどとやけにあっさりと書いたが、実際には上記の羽生の手が「疑問手」だなどということは十年前なら分からなかっただろう。今はAIで即座に解析できるから、指した直後に「最善手」だの「疑問手」だの「悪手」だのが分かってしまうが、それぞれの手の後には膨大な「最善手」だの「疑問手」だの「悪手」だのの山が分岐しており、人間がそのすべてを読み切ることは不可能である。

AIがなければ今日の対局もプロ棋士にさえ優劣不明のままであろう。

何とも面白みのない時代になったといおうか、素人にも楽しめる時代になったといえばいいのか。

いずれにせよ、藤井も羽生も史上最強レベルの棋士であることには間違いがない。

明日も二人の尊い対局姿を拝むようにして見たい。