INSTANT KARMA

We All Shine On

第94期棋聖戦五番勝負第四局

藤井棋聖佐々木大地七段を下し、3勝1敗で棋聖を防衛。通算4連覇を達成した。

この第四局では、終盤にAIが示した「先手73香」という必殺の一手があり、これが指せれば佐々木七段の勝ちだったようだが、感想戦で指摘されても両者しばし意味が分からないと言うほどの超難手だった。いわゆる「人間には指せない手」というやつだ。

もしAIがなければ、本局は最終盤まで優劣不明の大激戦と評されただろう。今では一手ごとに最善手と評価値が表示されるので、アマチュアでもいわば「神の視点」をもって観戦することが可能になっている。

佐藤天彦九段はこのような状況を「評価値ディストピアと呼んだが、プロ棋士にとってはディストピアでも、将棋を見て楽しむ側にとっては常に〈正しい手〉が見れるというのはありがたい話ではあるのかもしれない。だがその一方で、かつての観戦で味わったハラハラドキドキ感のある部分が失われたことも事実である。

ちなみに佐藤天彦九段は、藤井聡太感想戦で相手の読み筋を次々と論破し「感想戦で二度負かす」のを称して感想戦ハラスメント」という名文句も生み出している。

佐々木七段は、棋聖戦では敗れたが、内容的には惜しい将棋がけっこうあった。現在進行中の王位戦での健闘を期待したい。

藤井七冠にとって今年最大の大勝負は、8月4日に行われる豊島将之九段との王座戦挑戦者決定戦かもしれない。

この対局に敗れれば、今年中の八冠達成はなくなる。逆に、勝って王座への挑戦権を獲得すれば、永瀬王座との五番勝負となり、現在の藤井七冠の実力からすると王座を奪取して八冠を達成する可能性は高い。

その意味で、決して負けられない一戦である。

タイトル戦ならば五番勝負なら2敗、七番勝負なら3敗まではできるが、一発勝負は負けたら終わりである。いくら藤井聡太といえど、先日の王座戦トーナメントで九死に一生を得た村田六段との対戦を見ても分かるように、「一発喰らう」可能性はある。ましてや対戦相手は豊島九段である。序盤から一瞬も気が抜けない鬼勝負になる。

もし藤井が昨日の佐々木七段との対局に敗れていれば、8月1日に対局予定の棋聖戦第五局が2勝2敗のカド番で「負けられない一戦」となっていたことを考えると、昨日防衛を決めたことにより超絶ハードな日程を免れたという意味もあった。

それにしても、今日21歳の誕生日を迎える藤井は、20歳までに竜王2期、名人1期を含むタイトル16期。一般棋戦は、朝日杯将棋オープン戦4回など、計9回の優勝を成し遂げたことになり、すでに歴代トップ棋士たちの生涯成績に肩を並べている。

これで今年中に八冠を達成しタイトル独占するようなことになれば、この先将棋界はどうなるのだろう。将棋の神は一体どんな神慮でこのような天才を世に送り出したのか。

400年に及ぶ将棋の歴史における最後の狂い咲きということなのだろうか。

自分のような末端の「観る将」は、固唾を飲んで見ていることしかできない。