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しんいち

サイモン・シンフェルマーの最終定理 」(新潮文庫)を読んだ後に、京都大数理解析研究所望月新一教授らが「宇宙際(うちゅうさい)タイヒミュラー(IUT)理論」を拡張し、解決までに350年以上かかった超難問「フェルマーの最終定理」を新たな方法で証明したとする論文が数学誌「Kodai Math.J.」に掲載されたというニュースを見た。

そして、数学史上最大の問題の一つ「abc予想」を証明した望月博士の「宇宙際タイヒミューラー理論」の査読が完了し専門誌へ掲載されたが、彼が最初に論文を発表し公開した2012年8月30日から10年以上経っても証明がまだ受け入れられないと主張する数学者が多数現れ、今も激論が続いていることも知った。

昨年4月に放送されたNHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語」も見た。

この番組では、望月教授に取材を申し込んだが断わられたというメールが紹介されていて、実際の放送の後に望月教授が自身のブログで番組を批判している記事もある。

さらに、今年(2023年)の7月に、ドワンゴ川上量生社長が、「IUT理論について、理論の本質的な欠陥を示した論文を執筆した最初の数学者に、IUT Challenger Prizeとして100万ドルを贈呈する」ことを表明した記者会見もYoutubeで見た。

この記者会見では、「宇宙際幾何学センター(Inter-Universal Geometry Center; IUGC, 所長 加藤文元)」の設立と、IUT理論とその関連分野における新しい重要な発展を含む最優秀論文に、IUT Innovator Prizeとして毎年賞金2万ドル~10万ドルを贈呈することも併せて発表されている。

望月教授はその内容を批判しているが、上記のNHKの番組を見て、IUT理論というのがこれまでの数学の歴史を一変するようなパラダイムシフトなのではないかという野次馬根性が湧いてきたので、望月教授の友人であり数学者である加藤文元教授の著書「物語 数学の歴史―正しさへの挑戦 」(中公新書)「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」 (角川ソフィア文庫)を最寄りの図書館で借りてきた。

リーマン予想リーマンショックの区別も知らず、四則演算も覚束ない数学オンチの自分ではあるが、何となく暇つぶしになりそうだとの助平心で中身が分からないことは百も承知の上でざっと読んでみることにした。

というのも、自分の興味は、IUT理論それ自体にあるのではなく、それを取り巻く「事情」の方にあるからだ。

真に革新的な見解が出現したとき、それが外在的な事情によって一般的な認知を阻まれ、広く知られないままに終わる、ということはしばしば起こっている。あのアインシュタインの理論でさえ、時代や環境が違えば闇に葬られていた可能性はある。

IUT理論は、まったくの孤立無援と言うわけではなく、少なくとも日本国内には支援の動きがあるというだけでも恵まれていると言えるかもしれない。