ゆるく、脱力しながら、エモく盛り上がる。
デビューの頃の一撃必殺のインパクトはないが、ファースト・インパクトからの流れを自然に拡大しながら滑らかに表現し続けている印象。
このタイミングでのアジア・ツアーというのも風らしい。
Jun 24th - SEOUL
July 1st & 2nd - BANGKOK
July 7th - JAKARTA
July 9th - KUALA LUMPUR
July 13th & 14th - SHANGHAI
July 22nd & 23rd - TAIPEI
July 29th & 30th - HONG KONG
韓国、タイ、インドネシア、マレーシア、上海、台湾、香港
どの国でもファンが熱狂的で、ほとんど崇拝の域に達している。
もって生まれたカリスマというものだろう。
こういうスケールの大きなミュージシャンが日本から出てきたことは素直に嬉しい。
こじつけめいてはいるが、彼の活動は望月新一教授の「IUT理論」が示すところの「ゆるゆる」感覚に通じるものがあるような気がする。
IUT理論というのは、足し算と掛け算の間にある「底無しに固いはずの関係」を解体して変形を施すことに核心がある。
しかも、単に解体して変形を施すだけでははく、固いはずの関係を再構成する際に、きっかり元の固い状態のものとして再構成するのではなく、様々な「ゆるみ」=「不定性」が付随する、「ゆるゆる」な状態で復元する。
このことが従来の(主に欧米の)研究者からは「あり得ないもの」として認識され、受容可能な範囲をあっさり飛び越えた、余りにも衝撃的な事象として受け止められた。
藤井風が提示している価値観というのも、「手放す」ことや「執着しない」ことの大切さであり、「敵も味方もない」「比べるものは何にもない」という、競争主義的価値観に凝り固まった従来の「固定された確定性」を揺らがせるものである。
今回の「Worin' Hard」という新曲も、バスケのワールドカップのテーマ曲でありながら、勝利に向かって突き進め!という内容ではなく、
みんなよーやるわ めっちゃがんぱっとるわ
わしかて負けんよーにな ひそかに何かと努めるわ
なんも無くたっていいや 結果なんぞかったりーわ
という、一見投げやりにも見えるような「ゆるゆる」応援ソングといえる。
藤井風も、IUT理論も、なんもかんもくるってしもうとる世の中で、これまでの価値観にしがみついてシャカリキに生きるのではなしに、もっと自由に肩の力を抜いて「ゆるゆる」に生きてみてもいいんじゃないの? と問いかけている。
そんな気がしている。