もう10年も前のドラマだが、名作の誉れ高い『青い鳥』のDVDを借りて見た。
正直に言います。ドラマ自体はどうでもよくて、ただ夏川結衣が見たいから借りました。
でも、ドラマ自体もよかった。といっても第一部しか見ていないが。。。
しかし第一部だけでも作品として十分成立している。むしろ第二部は蛇足では?
このドラマのいいところは、どう見ても無茶な駆け落ち(というか不倫逃避行)に至る男女のプロセスが、見る者の共感を呼ぶまでに実に丁寧に細やかに描き出されているところだ。
ドラマ的には、駆け落ち後の逃避行がメインなのだろうが、むしろそこまでに至る部分が素晴らしい。
少し先走るが、若気の至りで職場放棄して女(夏川結衣)の娘を連れて列車に飛び乗ってしまう駅員(トヨエツ)が、娘が寝入った後に、列車内の自販機の前で、それまで抑えに抑えてきた互いの情熱をほとばしらせて抱き合い唇を貪る場面、個人的にはあれこそがこのドラマのクライマックスだった。
トルストイの『アンナ・カレーニナ』を持ち出すまでもなく、あれほどに燃え上がる禁忌的な愛は、当然ながら早晩崩壊する運命にある。
崩壊のプロセスも、佐野史郎の怪演ぶりもあってそれなりに緊迫感のあるものになっているが、トヨエツと夏川の二人の微妙な感情の絡み合いという意味ではやや物足りなかった。
しかし、駆け落ちに至る二人のやり取りはすべてが美しい。
第1話から第4話までの流れは、まさに絶妙で、テレビドラマ枠としてはこれ以上は望めないほどの描写がなされている。
役者の演技もそれぞれに光っている。トヨエツはイメージにぴったりの、真面目だがぱっとしない人生を送るクールな二枚目を完璧にこなし、永作博美も恋人未満の可愛い幼馴染を爽やかに演じている。小学生の鈴木杏も奇跡的にキュートでけなげで涙を誘う。
しかし、なんといってもこの作品の最大の見所は、夏川結衣の“崇高な魔性の女”ぶりである。
この時代の夏川結衣は、はっきり言って演技は棒に近い。
セリフ回しも『結婚できない男』の熟練した演技とは比較にならないくらい拙い。
それでも、彼女の、男の記憶に貼りついて離れない犯罪的なまでの美しさがすべてを凌駕している。
最初、鈴木京香がこの役のオファーを受けたが、途中で死んでしまう役なので断ったために夏川にお鉢が回ってきたという噂があるようだ。
しかし、鈴木京香ではなく夏川結衣であったが為に、このドラマはここまでのものになったことは間違いない。
誰もが夏川結衣の「町村かほり」をはまり役というが、これは、彼女の地で行ける役をもらったとか、女優としての彼女のイメージに嵌る役だったということではない。
伝え聞くところでは、夏川さんはかおりの役にどうしても感情移入できず、そのためにセリフがあんなにも棒読みになってしまったのだとか。嘘かも知れないが、さもありなんというエピソードだ。
つまり、夏川さんは「町村かほり」を上手に演じたのではない。にもかかわらず、どうしようもなく魅力的な「かほり」になってしまったのは、「かほり」的な資質とはむしろ違う個性を持つ夏川さんが「かほり」を演じたせいである。
「上手に演じる」ことと「魅力的である」ことはまったく異なる。ただ演技がうまいだけ、という役者ならゴロゴロいるだろう(もちろんそういう役者なしにはおよそ作品は成立しないのだが)。
どこかの女優がこの作品で「町村かほり」を上手に演じたとしたら、どことなく嫌味な悪女になってしまうと思う。そしてそれは作品の解釈としては正解かもしれない。
美貌というのは後天的にいくら身につけようとしても確実に限界がある。どんなに練習しても、天性の美貌を持つ役者の魅力には勝てないというのが残酷な事実だ。
夏川結衣は、天性の美貌の持ち主である。これもややこしい話だが、単に顔形の美しい女優ならいくらでもいる。しかし、夏川さんのような意味での美人女優というのは稀な存在である。
夏川さんの系列の容貌を備えた女優として頭に浮かぶのは、安田成美、常盤貴子、夏目雅子、少し古いところで吉行和子といったところだが、「町村かほり」をあれほど魅力的な存在にできるのは夏川さんしかいない。というのは、彼女は先に上げた女優のあらゆる面を備えているからだ。