INSTANT KARMA

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アキVSユイ(あまちゃん)

多くの人がハマっているNHK朝の連ドラ『あまちゃん』。

 

自分もご多分に漏れず、大いにハマり中。

 

毎日それなりに楽しく見ているが(7割がたは能年玲奈の演技見たさ)、今日の話(第91話)はかなり“来る”ものがあった。

 

アイドルになりたいと上京したものの、種々の理由から壁にぶち当たり、北三陸の地元に帰省中のアキ(能年玲奈)が、アキをアイドルの道に引き入れながら家族の事情等で上京を果たせず、地元ですっかりやさぐれてしまったユイ(橋本愛)と4か月ぶりに再会する。

 

再会の場面は、夜の海女カフェ。かつて二人がユニットを組んで、地元アイドルとして(一夜限りの)華々しいステージを繰り広げた思い出の場所である。

 

アキがしばしあの幸福な瞬間の追憶に浸っていると、ユイが「懐かしい?」と声をかける。

 

「楽しかった」というアキに対しユイは、「ちっとも楽しくなかった。もう忘れてしまいたい、消したい過去にすぎない」と吐き捨てるように言う。

 

ユイがアイドルになることを熱望していたことを知っているアキは、それでも「東京に来れば?」と誘いをかける。もともと東京に行きたがっていたのはユイの方で、アキは気乗りがしなかったのにユイの熱心な誘いで半ば強引にレールに乗せられたという経緯がある。

 

だがユイは、「もうアイドルとかどうでもいい。関わりたくない。諦めた訳じゃなくて冷めたの。完全に。だって、ダサいじゃん。オタク相手に生足出して、媚売って、真ん中に立って、それが何なの?今となってはあんなものに夢中になってた自分が恥ずかしいっていうか、もう汚点だよね。昔の自分を知ってる人に会うのが本当に嫌」と一気に今のアキの存在を全否定するような言葉を投げつける。

 

その一方で、ユイは、アキの所属するアイドルグループ、「アメ横女学園」や「GMT」のレパートリーの歌詞をすらすらと暗誦し、決してアイドルに無関心ではないことを示唆している。

 

「せいぜい頑張ってよ。応援してますんで。」と言い残して立ち去ろうとするユイ。

 

しかし、唯一頼りにしていた親友からこれまでの努力を全否定されたアキの気持ちが収まる筈がない。

 

ここまでの橋本愛の演技も完璧だが(滑舌が悪くてセリフが聞き取りにくいことを除けば)、反撃に出る能年玲奈がまた凄い。怒りと悔しさと悲しみを同時に表現するセリフと表情が、見る者を引き付ける。

 

「そりゃねえべよ!ユイちゃん、あんまりだ!

ずっと待ってたんだぞ。ユイちゃんの事。

必ず行ぐってすぐ行ぐって言うから待ってたんだぞ!

その言葉だけをずっと信じてたんだぞ。

それなのに何だよ!

冷めたって。やめたって。

おら、何のために東京で…奈落で…風呂もねえ合宿所で…。」

 

アキは東京で、プライドの高いユイがアキに遅れて上京することはあるまいと語る種市先輩に対し「絶対にユイは東京に来る」と涙ながらに啖呵を切っている。しかし今のユイの言葉で、種市の方が正しかったのかもしれないことが明らかになってしまった。

 

ユイはアキの涙ながらの訴えを、「知らねえし!」と一笑に付す。

 

ここからのアキが素晴らしい。

 

「ダサい?そんなの知ってるよ! やる前からダサいと思ってた! ユイちゃんがアイドルになるって言いだした時から!」

 

ここが「あまちゃん」におけるアキとユイの複雑な関係性を示している。

 

アキは実は東京生まれの東京育ちで、1年前に初めて岩手にやってきた「インチキ東北人」である。だからアキのメンタリティーはクールで醒めた都会的な根っこを持っている。

 

対するユイは、東京や芸能界についてはアキよりも詳しいものの、それは観念的な知識にすぎず、心の奥ではキラキラした都会(のイメージ)への憧れとコンプレックスを抱いている。

 

そのユイが、初めての親友アキに対して、心を裸にして「アイドルになりたい」と打ち明けたとき、アキはそんなことはダサいと知っていたから、一度は「聞こえないふりをした」のである。

 

ユイは、「(今の苦しみは)私のせいだって言いたいの?」と詰め寄る。

 

「違う。」

 

「じゃあ何!? アキちゃんは何でやってたの!?」

 

「楽しいがらに決まってるべ! ダサいけど楽しいがら…ユイちゃんと一緒だと楽しいがらやってたんだべ! ダサいぐらい何だよ!我慢しろよ!」

 

「アイドルはダサい」ことに気づいたユイに対して、アキは、「そんなことは最初から分かっていた」という。分かったうえで、ユイと一緒にいることが楽しいから、「我慢して」アイドルを演じているのだ、と。

 

すなわち、アキにとってアイドルは、ユイと楽しくやるために「我慢して」やるものにすぎない。アイドルになることそれ自体は目的ではなく、親友との絆を確認するための手段だったのである。

 

東京での生活はアキには決して「楽しくない」。それはユイがいないからだ、とアキは信じている。アキはいつかユイが東京に来て北三陸でのように一緒に楽しくやれることを心の支えにして頑張ってきた。

 

しかし、「アイドルはダサい」と言い捨てるユイが、アキと一緒にアイドルを目指すことはもうない。ユイが「アイドルになる」という目標を失ったのとは別の意味で、アキにとっても「アイドルになる」という目標は失われた。

 

言い換えれば、アキは、「自分はユイが好きだから、(自分にとっては一種の苦行でしかない)アイドルという仕事を我慢してきたのだ」と告白しているのに、ユイは、「自分がアイドルになるという夢は醒めた。だからアキとの友情も終わった」と宣言したに等しい(ユイとしては、「自分は夢を諦めたから、これからはアキひとりで頑張ってほしい」と言いたかったのかもしれないが、今回の二人のやり取りからはそうしたニュアンスを汲み取る余地はない)。

 

二人の間にはもう気まずい隔絶感しか残らない。

 

さらに激高したやり取りを交わす中で、アキは思わず、「(蒸発したユイの)お母さんは帰ってこないよ」と、自分が知った冷酷な現実を口にしてしまう。アキは東京でユイの母親が男性と楽しそうに歩いている姿を目撃してしまったのだ。

 

動揺しつつ「きっと帰ってくるよ」と答えたユイは、ここで初めて鎧を外した表情を見せる。このあたりの演技も実に上手い。

 

 

最後にアキはユキへのやるせない失望感をぶちまけて立ち去る。

 

「どんだけ不幸か知らねえが、ここで過ごした思い出まで否定されたらおらやってらんねえ!」

 

これは、ユイとの友情(少なくともこれまでのような関係)が終わったことを認識しつつ、せめて過去の思い出は美しいままに保っていたいというアキの絶望的な叫びである。

 

 

しばらく後、北鉄の駅で春子(アキの母親)に声をかけられたユイは、「私…アキちゃん傷つけちゃった…。」と春子に縋って泣く。

 

ユイは、自分にとっても、アキとの友情が、アイドルになりたいという夢よりも大切なものだったことにようやく気づいたのだ。

 

 

ラストシーンは、雪の夜道をひとり家路につき、帰宅したアキのアップで終わる。この能年玲奈の表情が何ともいえない。

 

 

今日の回は朝ドラには贅沢すぎる宝石のような15分間だった。