BSで昨夜『ローマの休日』を放送していた。
もうあらゆることが語り尽くされていると思うが、シナリオの巧みさに改めて感心する。
夜→昼→夜 の場面展開。
最初の夜と次の夜の台詞や二人の様子の対比。
語られない台詞や描かれない場面が何よりも雄弁に語る(行間を読ませる)構成が優れている。
例えば、ずぶ濡れになってジョーのアパートに戻ったアンとジョーの間に何があったのか?をその後の台詞から推察させるところ。
ジョーがアンに
Everything ruined?
(服は)全部だめになってしまったかい?(王女としての未練はすっかりなくなったかい)
と声をかけ、
アンが
"No...they'll be dry in a minute"
いいえ、服はすぐに乾くわ(いいえ、今夜のことは一時のことにすぎません)
と答える。
続けてジョーが
Suits you. You should always wear my clothes
似合っているよ。君はいつも僕の服を着るべきだよ
と言うと、
アンが
Seems I do
そのようね
と言う。
ジョーの求愛をアンが一生懸命はぐらかす様子が台詞の微妙なニュアンスに表されている。
アンは、宮殿に戻った後、
Were I not completely aware of my duty to my family and my country, I would not have come tonight. Or indeed ever again.
私が王家と祖国への私の義務を完全に自覚していなければ、私は今夜ここに戻ることはなかったでしょう。実際、永久に戻ることはなかったでしょう。
と侍従の前で言う。このときの台詞とそれまでの台詞の対比。
最後の記者会見の席で、アン王女の台詞
I have every faith in it-as I have faith in relations between people.
私は諸国家の友好関係を信じています―人と人との間の関係を信じているように
に対して、ジョーが
May I say we believe that Your Highness's faith will not be unjustified.
殿下の信頼は不当なものではないと信じております
と記者席から答える。
unjustified というのは、「根拠のない」ということだから、裏を返せば、「貴女の信頼は(抽象的なものではなく、私との関係という確かな)根拠を持っています」ということ。
脚本を書いたダルトン・トランボは、レッド・パージ(赤狩り)のためにアメリカ映画界から追放され、イアン・マクレラン・ハンターという偽名を使って「ローマの休日」を書いた。ハンターはトランボの友人で、名義貸しに協力したという。
多くの同僚たちと赤狩り裁判を体験したトランボの過去に照らせば、有名な「真実の口」のエピソードも味わいを増す。