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戦後民主主義者

大江健三郎の全盛期はやはり『個人的体験』から『万延元年のフットボール』あたりだと思うが、それ以外の作品は時代状況を考慮に入れて読まないと分からないところがある。逆に言えば時代状況をリアルに文学として写し取った作品といえるのではないか。

彼にとっての時代状況とは、「戦後民主主義」という言葉に要約される。「戦後民主主義」という言葉がリアルな響きを持っていた時代が、彼の小説のリアルな時代でもあった。

1990年代以降は時代のフェーズが変わり、彼の関心もより身近な世界(家族や郷里である四国の森、そして亡くなっていく知人ら)に向けられるようになり、時代状況との接点を失っていったように思う。

では大江の代わりとなる時代精神を純文学的に表現できる作家が出てきたかと言うと、出てきてはいない。村上春樹は、社会的な発言もするが、基本的には個人の世界を描くことで抽象的に時代とつながりを持とうとする作家だと思うし、村上龍大江健三郎に比べれば純文学的なクオリティーに欠ける。

大江健三郎は、やはり最後の大・小説家と呼ぶのがふさわしいだろう。