王将戦第五局二日目。
封じ手明けから藤井王将の強襲が続き、羽生九段にとっては苦しい時間が続く。
飛車で角金両取りをかけられた羽生は、角を切ってカウンター狙いの勝負に賭ける。
対する藤井も最もハードな手で応じ、逆襲を図る羽生の桂馬跳びによる金取りをなんと放置して竜が突っ込んでいく。完全に羽生の攻めが届かないことを見切ったような強気な攻めが続く。羽生も持ち駒の金を投入して頑強な粘りを見せる。
羽生が相次ぐパンチを浴びながらも一瞬のスキをついて急所の玉頭に手を付ける。さらに玉頭に狙いをつける桂馬を据えて、敵玉が視界に入った。
ここで藤井に緩手が出た。とはいえ最善手ではなかったというにすぎず、AIが示す最善手は余りにも困難な手であった。
ここからの応酬が本局最大の見どころであった。評価値は羽生に傾いたが、最善手を一手逃せばたちまち逆転というハードな綱渡りを強いられた羽生の方が有利とは思えない追い詰められた表情で長考を繰り返す。
敵陣の最深部に飛車を打ち込んだ時点で、評価値は羽生に大きく傾いていた。だがその後の攻め筋は困難を極めるもので、局後のインタビューによれば自信をもっての指し手ではなかったようだ。
藤井の踏み込みに対し、形勢不利を感じていた羽生は銀を打つ受けの手を選んだ。
結果的にはこれが敗着となり、藤井が的確に寄せ切って終わった。
守りの銀打ちに代えて敵玉の頭に銀を打っていれば、まだまだ壮絶な終盤戦が続いていたと思われるが、詮なき仮定論にすぎない。
とまれ若きチャンピオンをあわやというところまで追いつめた羽生九段はさすが永世七冠という空前の偉業を成し遂げた底力を見せた。
素晴らしい将棋を見せてもらった。これで藤井の三勝二敗。次局に勝てば防衛が決まる。