今度は先輩ら(主に3人)が持ち寄った曲をかけるという「1970年特集」のレジュメ。時は1989年4月。新歓企画でこれらの楽曲を聴かされた(まあ飲み食いしつつダベりながらなんでまともに聴いちゃいなかったんだけど)自分は未知のロックの世界に圧倒され戸惑っていたが、もう一人の新入生は目を輝かせて楽しそうにしていて、東京にはやっぱり凄い奴がいるなと思った(ちなみに彼は富山出身でビーチ・ボーイズがフェイバリットで超マニアックな60年代ポップスのファンだった)。この先輩3人はたしか1人が北海道、2人が関西出身だった。
1 Out Demons Out / Edgar Broughton Band
エドガー・ブロートン・バンドは「イギリスのマザーズ」と評されることが多いので、以前から気にはなっていたのだが、最近CDで出たベスト盤「As Was」を聴いてみて、嘘だったということが分かった。ただし、69年から70年にかけては、わりと実験的なこと―例えばZombiesの「Apache」とキャプテン・ビーフハートの「Drop Out Boogie」の合体―をやっていたので、その頃は一聴の価値ありと言える。
ちなみに最大のヒット曲は、71年発表の「悲しきフリーク野郎」だそうである。
2 What's the Use / Pretty Things
ローリング・ストーンズのオリジナル・メンバーだったDick Taylor(ぼくはストーンズのこと知らないので違ってても責任持てません)が1963年に結成した Pretty Things も、初期は普通のビートバンドだったらしいが、60年代後半のサイケのあおりを受けて、「SF Sorrow」、「Parachute」といったサイケのコンセプト・アルバムを出している。
「What's the Use」は「Parachute」からの選曲。なお、このアルバムには、 Pink Faires, Tomorrowの Twink が参加しとります。
3 Peaches En Regalia / Frank Zappa
1970年に出された「Hot Rats」はキャプテン・ビーフハートが参加していることで有名だが、ザッパの音楽の一つの転換点になったということで、より重要なアルバムである。前作「Uncle Meat」まではわりとロックっぽい曲や音のコラージュ的な作品が多かったのに対し、「Hot Rats」以降はジャズ色を強めていき、「Waka/Jawaka」、「Grand Wazoo」に至ってはビッグバンド的な編成になってしまう。インプロビゼーション主体のジャズ・ロックが好きならきっとハマる。ロック史に残らざるを得ない名盤。
4 One Blind Mice / Quatermass
60年代後半から70年代前半にかけて登場したキーボード・ロックはだいたい二つのタイプに分けることができる。つまり、シンフォニー路線とハードロック路線である。前者にはナイス、ムーディ・ブルース、レアバード、クラウズ、エッグなんかが入るけれども、Quatermassは Atomic Roosterと共に、ひたすら重く、暗く歪んだキーボードをリード楽器としてフィーチャーしたハードロックバンドである。
長年貴重盤だった唯一のアルバムがCD再発されたので、先入観を排して一度聴いてみていただきたい。
関連バンド:Hard Staff。これも良い。
5 Out-Bloody-Rageous / Soft Machine
「Live at Proms 1970」と題されたライブ・アルバムより。69年発表の「Third」D面に収められている曲。1970年時のメンバーは4人で、ロバート・ワイアット(ドラム、ボーカル)、マイク・ラトリッジ(キーボード、オルガン)、ヒュー・ホッパー(ベース)、エルトン・ディーン(サックス)。
「Third」ではかなりの多重録音がなされ、かつ、サポートメンバーも多彩であったため、非常に分厚い音を成していた。それに比べると、純粋に4人で演奏したこのライブ録音は少し淋しい※。どうしてもインプロヴィゼーションが一つの楽器でしかできない状態で、集団即興の緊張感はここには存在しない。だが、1970年当時、異才数あれど、彼らはその中でもかなり特異な存在であったことは疑いなく、是非「70年特集」の顔ぶれに加えてあげたいと思ったわけです。
※ただ、これは「Third」に収められていた曲自体の性質によるものだともいえる。「Fourth」(70年発表)になると、演奏はかなりフリーキーになり、作曲よりも即興的要素が強まる
6 Musical Box / Genesis
当時はロックの可能性を広げるべく様々な要素を取り込む実験が行われたが、中でも流行ったのが組曲形式で、組曲はプログレッシヴ・ロックの必要条件であったと言っても過言ではないだろう。この曲なんかはその典型じゃないかと思うので取り上げてみた。
ピーター・ガブリエルがこのグループで何をしようとしていたかが正しく理解され始めた頃すでに彼は去っていたというのは皮肉なことだ。
7 Ashes to Ahes / Tangerine Dream
最近このグループ(ただし初期)の作品がとても気に入っていて、特にファーストは現在のタンジェリン・ドリームからは想像できないほど Edgar Froese のギター・インプロヴィゼーションが走りまくっていたりしてかなりアナーキーな内容となっている。解説書によると、結成当時はブルース・バンドだったが、サルヴァドール・ダリに会って前衛を志したのだそうで、意外なところでダリの偉大さを再発見した。エレクトリック・サウンドを垂れ流し続ける現在の姿はどうしても耐え難い。
8 As I Feel Die / Caravan
私が長らく愛聴しているグループから1曲。イギリスの片田舎の、それほど才能があるとは思えないグループですらこのくらいかっこいいことをやっていたのだから、当時の音楽状況がいかに活性的であったかが分かるだろう。