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『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』

川崎大助著『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』を読む。

かなり初期のころからフィッシュマンズ、特に佐藤伸治に寄り添うように取材・活動してきたミュージックライター・『米国音楽』編集長による評伝・エッセイ。

フィッシュマンズのみならず、90年代の渋谷周辺の空気感を描写するという著者の意図は十分に伝わってくる。僕自身の体験とも重ね合わせて共感しながら読めた。

もっとも僕がフィッシュマンズの音楽と出会ったのはかなり遅く、2000年に入ってからだった。リアルタイムではむしろフリッパーズ・ギター小沢健二コーネリアスを聞いていた。 フィッシュマンズは、位置的には「渋谷系」に近いところにいたが、そのカテゴリーからははみ出す音楽をやっていた。『ロングシーズン』を出すまでは注目度もそんなに高くなかった。

初めて『ナイトクルージング』を聞いた時には僕もぶっ飛んだ。あんな音楽はこれまでになかったし、これからもないだろう。ジャンル名は「フィッシュマンズ」としか名づけようのないものだった。

フィッシュマンズの音楽は、日本のロックが生みだした宮沢賢治みたいなものかな、と思う。透明な普遍性をもつ、ある種の感受性を備えた人たちの心象風景を見事に表現した音楽。

フィッシュマンズと共通項を感じさせるバンドとしてスピッツがいる。僕は彼らの音楽も大好きで、草野マサムネと同時代に生きられただけでもこの時代に生まれてよかったと思うくらいだ。 しかしフィッシュマンズは、スピッツが表現しきれない、というか表現することを諦めた領域をとことん追究している。それが何かについて敢えて説明を求めるなら、この本を読むのが一番だろう。

全体として、著者の文体に誠実さを感じるし、かつてのロッキン・オンを読んでいた頃のように何の違和感もなくすいすい読めた。

ただ一つ、これは本書の欠点ではなく、仕方のない部分なのだが、あくまで著者の目から見たフィッシュマンズの記述に留まっているため、メンバーの脱退やレコード会社の移籍といった重大な出来事について、まったくその理由や事情が分からないままだ。

これらについては、別に書かれたものがあるのかもしれない。 とりあえず『公式版 すばらしいフィッシュマンズの本』というのを買ってみたので、ぼちぼち読んでいこう。