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この男、凶暴につき

録画したビートたけしの初監督作品『その男、凶暴につき』を見る。北野武の監督作品はまだ1本も見たことがなかったので、勉強のつもりで見た。時間がなかったので早送りにした部分もある。陰惨で見たくないシーンも早送りにした。

たけしがこの映画を撮り、主演したのは、今の自分と同じくらいの年齢だ。当時の彼の佇まいは、この世の絶望と陰惨さと滑稽さと可笑しみ、そして哀しさを知っていると感じさせる。それは虚無的ですらある。破壊衝動のようなものも感じる。

お笑い芸人としてトップに立っていた彼だが、その眼差しは虚無的である。冷酷、というのとは違う。狂気でもない。狂気に憧れるが、狂気にすらなれない男の乾いた絶望だ。

以下ネタバレあり

 

最後に主人公が妹を撃ち殺したことについて、解釈が分かれているようだが、別にどう解釈しても構わないのだろう。

自分は、このまま彼女を生かしておいても不幸になるだけだし、自分(主人公)も早晩死ぬ運命にあることは明らかだから、これ以上の地獄を生みださないためにしたことだろうと思った。

いずれにしても、ハムレットの最後と同じで、悲劇は悲劇らしく終わるより仕方ないのだ。

ラストの菊池のエピソードは蛇足だという話もあるようだが、チープではあるが皮肉が効いている。仏教的世界観(諸行無常因果応報)などといえば大袈裟に過ぎるにしても。

バイオレンス映画は苦手だが、この作品に流れる「静けさの感覚」みたいなものにある種の魅力を感じた。

他の作品を見るのが楽しみだ。

追伸

後日たけしの本を読んでいたら、刑事が妹を撃ち殺したのは、自分も妹のように気違いになるのを恐れたからだとたけし自身が語っていた。

しかし、あの時点で、あの主人公に「何かを恐れる」という感情が宿っているとは考えにくいから、自分の解釈の方が正しいのではないかと思っている。