INSTANT KARMA

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ロッキング・オン天国

ロッキング・オン編集長増井修の書いた新刊ロッキング・オン天国』を書店で見つけて衝動買い。メチャメチャ面白い。

田舎少年の自分がロッキングオンをバイブルのようにして毎号読んでいたのはちょうど増井修が編集長になる1990年5月号の直前位までで、増井編集長になって誌面がブリット・ポップ天国になって販売数を爆発的に伸ばしてからはもう読んでいない。それでも自分にとってのロッキング・オン渋谷陽一よりもむしろ増井修だった。

編集長を辞めてロッキングオンを解雇された(裁判で撤回?)とか風の噂のように聞いていて、この10年以上何をしているのか全然知らなかったが、2016年に書かれたまえがきの「自宅発18時」だけ読んでその文章の面白さに80年代にタイムスリップしたような気分をしばし味わった。

そういえば当時のロッキング・オンでは岩見吾郎とか一条和彦とかいうライターの文章もやけに面白かった記憶がある。今は何をしているのかネットで検索すれば分かるのかもしれないが敢えて検索しようとは思わない。そこまでネットに依存することでネットの奴隷に成り下がりたくはない。何もかもネットのいいように操られることは俺のプライドが許さない。

中高生時代は月に一度ロッキングオンの発売日に書店で購入して、買い込んだスナック菓子をボリボリつまみながら最初の記事から順番に読んでいくのが生活の中で一番充実した時間だった気がする。学校では好きな音楽について語り合える友人などいなかったから、プリンスとかエレファントカシマシとかを孤独に聴いていた。増井修が編集長になった頃にそれまでの生活がガラッと変わって、音楽の趣味も変わった。プリンスも「バットマン」を出してからはあまり聴かなくなり、エレカシも「浮世の夢」以降は買わなくなってしまった。

あの頃のロッキングオンを読んでいる感覚でジャンクフードをむさぼり食うように一気に読み終えた。終わりの方でロッキングオンを退社したときの経緯も書いているのかと期待していたがまったく触れていなかったのが唯一残念だった。「特殊な会社で人間関係がやたらややこしく、20代の血気盛んな若者たちばかりで殺伐としていた」といったあたりの記述から察せよ、ということか。

この人の文体、自分語りが過ぎたり話が支離滅裂な方向に飛んでいくスタイルに無意識のうちに影響を受けていて、未だに日常生活にも支障をきたしている人は少なくないのではないか(そんなわけないか)。でもぶっ飛んだアーチストのような無軌道な狂気ではなく、当たり前のことだが雑誌発行人かつ会社人として冷静な戦略的思考も持っていたことがこの本でよく分かる。1章をまるまる当時のロッキングオンの実売数や返本率や粗利を具体的金額まで挙げて説明しているのは今だからこそ書ける内容だろう(というか今でも書いていいのか?)。

「あの頃の自分だけが輝いていて語るに値する時代で、この本を書いてしまったらもう自分には何も語ることがない」みたいなことを自虐的に書いているが、この本を読む限りまだまだ読者を虜にする筆力は健在で、同時代についてのエッセイみたいなのもどんどん読んでみたい。ストーンローゼズも復活したみたいだし個人的にはこの本を機にまた目立つ場所に戻ってきてほしいなとキボンヌ。

ちなみにネットで検索してみたらさっきのは岩見吾郎ではなく岩見吉朗で、マンガの原作者をしたり大学の准教授(?)をしたりされているもよう。一条和彦氏については不明。