INSTANT KARMA

We All Shine On

リテラシーとか言う前にネットの怖さを思い知らないといけない件

インターネット上で、違法ではないが一部不適切な書き込みをしたために、猛烈な非難を受ける「炎上事件」が後を絶たない。

そんな中、主に高齢者向けに炎上を起こさない方法を教えているプロがいるという。年300回を超える講演をしている、某IT企業のO/Pさん(本人の希望により匿名、43歳男性)だ。彼の目標は、ズバリ「炎上で人生を無駄にする高齢者をゼロにすること」。

今年4月、都内の某老人施設の大ホールに、入所1年未満の高齢者約90人(対象年齢65歳〜95歳)が集まった。O/Pさんは、いきなりショッキングな言葉で聴衆の度肝を抜いた。

「みなさんにお願いがあります。ボードに自分の名前とマイナンバーと住所と携帯番号とキャッシュカードの暗証番号を書いて、渋谷のスクランブル交差点に30分ほど立っていて欲しい」

場内のスクリーンに、人々で賑わう交差点の風景がプロジェクターで映し出される。

老人たちが一斉に「えっ・・・」と顔をしかめる。

「そうですよね。僕だって、そんなことしたくない。でも実はこれ、毎日世界中で大人もやりまくっていることです。インターネットにものを書くということは、この交差点に掲げることと同じなんです」

「まだこの交差点の方がましなくらいです。通る人は1日たった40万人。しかもボードを下ろすことだってできる。でも、インターネットは違う。一度あげたら二度と下ろせない。全世界に公開され続ける」

一転して凄みのあるO/Pさんの声色に、場内に緊張が走る。

魑魅魍魎が跋扈するネットで日々起きる混沌極まる複雑怪奇な問題群。Oさんは「まず、軽いやつを見てみましょう」と、一枚の写真を映した。銃器やサンドバックや熊の剥製や漫画や食べ散らしたスナック菓子の袋が散乱している、むさ苦しい男性の部屋に見える。

部屋の模様替えをしたので、ブログに載せる。こんな何気ない行為が、個人情報を世界中にさらすことになるとO/Pさんは言う。スマホで撮った写真には、設定次第では位置情報が埋め込まれている。CIAの元職員エドワード・スノーデンのショッキングな証言を待つまでもなく、画像データを少し調べれば、誰でも住所や部屋の位置を割り出すことが可能だ。

次に映し出されたスライドには、さきほどの部屋の写真から特定された住所(東京都××区××町○―○ △△ビル・・・号室)が、地図と共にバッチリ書き込まれていた。

「家なんてバレたってかまわないよという人がいるかもしれませんが、その発言を将来自分を狙うストーカー、家族を狙う犯罪者、銃乱射事件の犯人にも言えますか? これ、大抵はいい大人がやっているんですよ。例えば入れ歯の写真、盆栽の写真。位置情報が残ったまま、ネット上にのせている人がたくさんいる。だから、皆さんが教えてあげて欲しい。皆さんはもう施設にいるから関係ないなんて言わずに!」

思わず熱くなって、涙目で声を荒げるO/Pさん。

「では、より重たい問題。ネット炎上の話に入ります」

場内に厳粛なムードが漂う。

ウトウトし始めた最前列の老人を、係員が叱りつける。場内にピリピリした緊張が走る。

2013年7月、高知市のコンビニを舞台に起きた炎上事件。20代のアルバイト店員が、アイスクリームを販売する冷蔵ケースの中で寝そべる写真を、フェイスブックに投稿した。ネット炎上が社会的に注目されるきっかけとなった事件である。O/Pさんは、悲惨な結末をあえて詳細に、一歩一歩解説していく。

2ちゃんねるの利用者が、写真を見つけて怒り出しました。日本の炎上は、この巨大な掲示板にたどりつくと始まってしまいます」

「汚ねえなあ、この店のアイス絶対買わねえ。このコンビニチェーン、利用するの止めよう……そんな感じのやりとりが繰り広げられました。2日後、もう新聞に載りました。『コンビニ店員、冷蔵庫内で横になる。一般の人からの指摘で発覚』。2ちゃんねるの連中が、大挙してクレームの電話を入れたんです」

「コンビニチェーンはこのとき、対応が伝説的に早かった。新聞記事が出る前日には、さっきの店をきれいさっぱり潰します。店主が9年間がんばってやってきた店です。9年の苦労が、たった数枚の写真で全部消えてなくなりました」

その後も同じような行為をして炎上する若者が続出します。調理師学校、蕎麦屋、大手ハンバーガーチェーン……。

「この子たち、びっくりするくらい短い時間で身元がばれています。一日、二日じゃないですよ。大体3〜4時間です。もっと早いと数十分。ちゃんと理由があります」

スクリーンに、スポーツ観戦に熱狂する大群衆の様子が映し出される。群衆の数はどんどん増殖し、日本全土を、そして地球全体を埋め尽くす。3Dで映し出されるコンピューター・グラフィックの画面の迫力に、老人たちの多くが思わず身を乗り出す。

「100万人超。これが炎上しているときに、うわっと集まってきている人間の数です。炎上してるこいつのこと、知ってるぞという人間がいない方が、不自然です。インターネットで馬鹿騒ぎを起こしたら、絶対に身元がバレます」

では炎上事件は、どのように取り返しのつかない事態へと突き進んでいくのか。

O/Pさんは、中南米の麻薬カルテルが、集団で男性を惨殺している「いじめ動画」をユーチューブに投稿した炎上事件を例にあげた。

場内が暗転し、ショッキングな動画が映し出される。

「この組織は夜8時すぎに、スマホからこの動画をあげました。炎上が始まったのは、そのわずか10分後です。動画は2ちゃんねるに転載されました。バッジのデザインから、組織が特定されました」

「構成員名簿がすぐに転載され、動画内での呼び名と名簿との突き合わせが始まります。最初の一人目は50分後に、身元がばれています。残りの十五人も、すぐでした」

さらに組織トップが社会的地位をカムフラージュするために設立した会社の登記簿や電話番号、妻の通うホットヨガ教室のインストラクター、息子の学校の担任、通学路、今日のキャラ弁、自宅内部(寝室、トイレ、キャットタワー)の写真が次々と投稿された。

「すぐに家に住めなくなりましたよ。住めなくなったので引っ越します。すると引っ越し先はどこ、とネットで追及が始まります。今も十七人分の引っ越し先の住所番地が住民票のコピー付きで載っています。終わんないんですよ、炎上って。一度はじまったら燃やし尽くすまで止まんないんです」

いったん炎上が収まっても、ネット上には痕跡という名の爪痕が残り続ける。たとえグーグルに削除請求をしても完全ではない。進学、就職、結婚。そうした人生の大事な場面で過去の炎上が「ぐあんと足を引っ張ってくる」。それが、ネット炎上の本当の恐ろしさだ。

「炎上事件を反省して、必死に更生した元服役者(殺人未遂事件で懲役5年)の知人がいます。がんばって、私の推薦で、私の所属していた大手IT企業の内定をとりました」

「決まったその日に、内定が取り消されました。会社に電話が入ったんですね。『お前ら間抜けな会社だよな。あいつ昔なにやったか知ってる?そんな人間に内定出しちゃうなんて、ネットでいい笑い者になるよな』と」

「会社の人事担当者が慌てて事実確認して、内定を取り消したんです。私は直接、都道府県を隈なく逃げ回って確認しました。過去のネット炎上が発覚したことによる学校の推薦取り消しや内定取り消し。これは日本中で起きています」

還暦になっても、炎上の過去はつきまとう。

熟年離婚して、W不倫の末結ばれた愛人と結婚しようと、相手の娘にあいさつにいく。返事は『あなた昔炎上やらかしたらしいわね。そんな人と結婚させるわけないでしょ。帰りなさい』。愛人の親戚がネット検索して、過去の炎上に気づいたんです」

「結婚話がばっと消えてなくなりました。これも実話です。大阪府内に住んでいた60代の男性。過去にやらかした炎上のせいで、結婚できなかったんです。彼は、ショックから行方不明になりました」(後日発覚したことだが、この時の聴衆の中にその男性はいた)

どうすれば炎上を避けることができるのか。O/Pさんは、その方法は「一枚の写真で伝えられる」とキッパリ断言。

再び場内が暗闇に包まれると、大スクリーンの上に、玄関ドアに黒装束の男たちが「わしら 丸大ハムから 金 受け取った。お前ら 動くなら動け。 わしら 捕まる理由ない。 丸大ハムに聞いたら全部わかる かい人21面相」と張り紙をしている写真が映りこんだ。

「これ家の玄関ドアです。皆さんで言えばさしずめ、施設の個室の入口というところでしょうか。貼った内容は、あなたがやったことだと必ず分かる場所だということです」

「ネットも同じです。自宅の玄関ドアに貼り出せる内容なら、どんなものでもネットに書いて大丈夫です。どんな写真もどんな動画もコメントも。炎上しません。大丈夫です」

「その代わり、家の玄関に貼れないものはネットに書かない方がいい・・・のではなくて絶対に書けないんです。だって人生終わるんですよ! 人生終わってもいいから書きたいもの、貼りたいものってありますか? 私はないです。みなさんも、ないはずです。まあどっちにしろ、もうすぐ人生終わるんでしょうけどね・・・」(このくだりはO/Pさんが毎回必ず披露するジョークなのだが、過去にウケたことが一度もないという)

O/Pさんは最後にこう締めくくった。

その書き込み、玄関ドアに貼りだせますか? インターネットで迷った時は、神のお告げだと思って、この言葉を思い出してください」

O/Pさん(本人の希望により匿名)は2010年、某大手IT企業に入社(自称)。ブログやチャットなどのネットサービスで、利用者による規約違反行為などが行われていないか、勤務時間中に会社のPCで私的なメールのやり取りをしている者がいないか、パトロールする部署の責任者に就いたと生意気にも大言豪語するが、実際には勤務実態はなく、バイトなのに会社のPCから会社の広報部ツイッターにログインして、好き勝手なことを書きこんでいた。やがて、「とある不祥事(会社の広報部ツイッターが炎上)」の責任を負わされ、5年前に本人いわく「トカゲの尻尾切り」で退社を余儀なくされたのは事実のようだ。

その後、システムエンジニア、NHKの記者見習い、自宅警備員などさまざまな職を転々とする中で、さまざまな炎上も目にしてきたらしい。「一番、状況を身につまされて知っている人間として、炎上とその後始末の仕方を伝える責任があると感じるようになった」などと意味不明の供述を繰り返している。

5年前から、30分50万円で講演を続けている。予約は3年待ちだという(自称)。芸能プロダクション向けに、「炎上商法」のアドバイザーもしているという(嘘)。

進化の早いネット業界では、次々と新たな情報機器やアプリが登場する。しかし、どんな流行が起きようとも、「ネットの本質」を知っておけば、炎上を防ぐことができるし、炎上を利用して金を儲けることも可能だ。そう考えて、偉そうに内容を工夫しているという。

今この瞬間も、炎上を起こしてしまう高齢者は後を絶たない。O/Pさんは講演では必ず、こう呼びかけた。

「炎上を起こしたら、私にフェイスブックでもツイッターでもいい。すぐに連絡して欲しい。正しい対処方法を、詳しく教える」

そんなO/Pさんとは今も連絡が取れない状況にある。