年末にCSで放送していた。TV初ということで、貴重なオンエアだったが、これもハードディスクの交換と共に消えてしまうので、今のうちに感想だけ記しておく。
東海テレビ・ドキュメンタリー取材班が制作した作品である。大阪の堺市に事務所を構える指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」にキャメラが入る。
取材の取り決めとして、
・取材謝礼金は支払わない
・収録テープ等を事前に見せない
・モザイクは原則かけない
という合意があったとテロップが流される。
この手のドキュメンタリーが好きな人は、ネットや書籍等でこの映画に関するいろんな情報を手に入れることができるだろうから、ここにクドクドと書かない。
社会的アウトサイダー集団の内側に潜り込んでキャメラを回すというドキュメンタリーでは、個人的には森達也監督の『A』や『A2』が印象に残っている。
排除され、異質で理解不可能な集団とみなされている人々に直接取材し、実際に話を聞いてみると、そんなに「私たち」とかけ離れた人々というわけではなく、彼らには彼らなりの切実な言い分がある(決して共感や同意はできないにしても)ことが分かる、というのがこの手のドキュメンタリーの基本的な構図。
もちろん取材に応じている時点で彼らは彼らの主張のために取材を利用しようという意図が多かれ少なかれあるのだし、本当に見せたくない面は隠すと見るのが当然だろう。
それでも、今まで見えてこなかったものが見えてくるということの意味は確かにある。
この『ヤクザと憲法』の取材のいきさつは知らないが、この作品では取材を受ける暴力団の側に明確に「主張したいこと」があり、映画の基本的なテーマもそれに沿ったものである。
それは、「ヤクザとその家族には基本的人権が保障されていない」という現実である。
銀行口座がつくれず子どもの給食費が引き落とせないと悩むヤクザ。金を手持ちすると親がヤクザだとバレるのだ。自動車保険の交渉がこじれたら詐欺や恐喝で逮捕される。しかし、弁護士はほとんどが「ヤクザお断り」…。日本最大の暴力団、山口組の顧問弁護士が、自ら被告になった裁判やバッシングに疲れ果て引退を考えている。(映画公式HPより)
映画の前半では、おそるおそるキャメラが事務所の内側に入り、その日常風景を淡々と撮影し続ける。
会長や、山口組の顧問弁護士が登場してからは、この映画の主張が前面に出てくる。といっても、強いメッセージ性というにはかなり控えめなトーンではある。
暴対法以降の「ヤクザの人権保障」を巡る議論は、単純ではなく、それについてここで立ち入るつもりはない。
暴力団対策法の施行からもう25年以上が経つ。当初からこの問題は存在したわけで、むしろこれまでこのようなドキュメンタリーがまったく製作されなかった事態の方が異常なことに思える。
結論を言えば、この映画ですら中途半端な内容であり、問題提起の半ばで終わっていると言わざるを得ない。
しかしそのことで製作陣を批判するつもりはない。むしろ東海テレビの勇気ある取り組みは称賛に値する。この作品はもっと知られ、評価されてしかるべきであると思う。
ここで言いたいのは、民放テレビは、在京キー局よりも、地方局の方が番組制作の姿勢と見識において優れているということだ。
地方テレビの制作するすぐれたドキュメンタリーや教養番組は、全国で見れるようにするべきだということが言いたいのだ。
たとえば、岩手朝日テレビでは、2月20日に、「賢治文学とクラシック〜のんが解くダダダダーン〜」という教養番組を放送するのだが、こういう良い番組を、全国でも見れるようにして、ソフト化も希望する。
そのことが書きたかった。