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野いちご

家の近くの映画館でベルイマンの『野いちご』を観てくる。

 

78歳の医学教授(イーサク・ボルイ)が大学で名誉博士号を授与される日の一日を追ったドキュメントという体で、彼の意識・無意識の世界が夢や覚醒時の出来事を通して展開されていく。

 

ベルイマン映画をきちんと見るのは初めてだったので、例によって何の事前知識もなく臨んだ。率直な感想は、「スエーデン版小津安二郎?」というものだった。

 

老教授イーサクを演じる主役の俳優が実によく、40年間仕えている家政婦さんも実にいい味を出している。二人のやり取りだけで十分にいい気分になれるのだが、そんなのは映画のパンの耳の端っこにすぎなく、現代にも十分に通じる家族親戚四代を巡る人生ドラマが重厚に張り巡らされ、がっつりと提示されていく。

 

この頃の映画(1957年)は、日本映画もそうなのだが、俳優や女優の顔が本当に素晴らしい。主人公の息子の嫁を演じるイングリッド・チューリン、かつての婚約者サーラとヒッチハイカー娘の二役を演じるビビ・アンデションの二人は、見ているだけで幸せな気分になれる。後で調べたら、二人ともベルイマン映画の常連という(ビビは今年の4月に世を去ったそうだ。R.I.P)。

 

繰り返される悪夢や、不穏で陰鬱なシーンが多いにもかかわらず、気分の悪くなるような暗鬱さが終始感じられなかったのは、これら俳優の清新な演技によるものなのか、それこそがベルイマンの魔術なのか、未だ判然としないのだが、とにかく一瞬も見飽きることなく、見終えた後に深い余韻が残る、いい映画体験をさせてもらった。

 

タルコフスキーがオールタイム・ベストに挙げたというのも納得の名作。こういう映画をもっと見たい。