佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』を読む。これまで読んだ作品の中では一番すんなりと読めた。
この人の小説は基本的に二十代前半の男が主人公で、郊外の都市で地味な仕事についていて、独身で、関係性が微妙な恋人がいて、夏物語で、というイメージが出来上がっているのだが、この『きみの鳥はうたえる』も基本はその路線だ。
物語や文体の魅力というよりは、人間の生活というものをジッと見つめるその静謐な視点の確かさへの信頼といったものが魅力であると思った。
地味な作風ゆえ生前は一部の評価に留まったのも分かる気がするし、その落ち着いた視点ゆえに近年になってから続々と原作が映画化されるなどして再び評価されているのも分かる気がする。
同じ単行本(文庫)に収録されている『草の響き』には私小説的な要素もあり、それも興味深く読んだ。
あと何点か読んで、図書館で借りた特集本(『佐藤泰志 生の輝きを求めつづけた作家』)も読んでから改めて感想をまとめてみたい。
ついでに、アマゾンプライムで映画化されたのも見たが、これは原作とはかなり別物という気がした。
佐藤泰志の作品世界はやはりチャールズ・ミンガスやビートルズの世界であって、スマホやらヒップホップ(OMSB)が出てくるのは違和感がある(原作を離れて一本の映画としてみれば、好みかどうかはともかくとして成立していたとは思う)。