INSTANT KARMA

We All Shine On

レビュー大全

さいきんAI美女が発達しすぎて、ネットで美女の画像を見ても本物か疑ってしまう。

そしてこれを突き詰めていくと、本物だっていろいろ修正を加えているんだしとか、別に本物でなくてもいいとか、むしろ整いすぎた美女はよくないという方向にまで行く。

実際にもうそうなっている。

 

小谷野敦「レビュー大全 2012-2022」が面白い。

文芸雑誌の書評欄が、仲間内による「褒め書評」のみが掲載されるようになって久しい。少しでも「批判」めいたことを書けば、文壇内からパージされることになる。そのような状況に嫌気がさし、作家・比較文学者K(小谷野敦)は、ある時期から、しきりにAmazonレビューに実名で投稿するようになった。2012年から2022年まで、11年(4000日)にわたって書き記した壮大な記録。その讃辞と酷評が、鋭い輝きを見せる。

 

世評高い芥川賞受賞作は、果たして本当に傑作なのか――。サントリー学芸賞受賞作は、評価すべき研究書なのかどうか……。今や文壇・論壇から消えつつある、真っ当な批評の姿を提示する。総取り上げ点数は約3000(書籍1764/映像等1146)に及ぶ。

 

すべての作品を★~★★★★★で5段階評価(★4と★5作品のリストも掲載)。80箇所に付記を加筆し、各年の冒頭には、「総括」を記す。ブックガイド、映画ガイドとしても活用できるように、66頁にわたる詳細な総索引(作品名/著者名・監督名・出演者名)付。

もちろん著者の評価にすべて賛成することはない。意見が食い違うのもそれはそれでいい。重要なのは、忖度抜きに、正直な感想が綴られていることにある。

純文学だからいいとか、通俗的だから駄目といった紋切り型の発想がなく(こと小説に関しては)頭の固いところがないのもいい。

小谷野敦私小説作家でもあり、彼が面白い小説だと評価する作品はたいていハズレがないので、高評価をつけている本は、読んでみようかという気になる。

面白くない作品についても、歯に衣着せぬ身も蓋もないコメントに爆笑させられる。

坪内祐三がいなくなってしまったので、目利きの存在に飢えているのだ。

 

これのレビューを読んで、あらたに読みたくなった本:

「十五」Ali (優れた私小説

「小説 新子」時実新子 (すばらしい自伝小説)

「歌舞伎町で待ってます」牧瀬茜 (かなり上手い)

本居宣長集」日野龍夫 (解説が素晴らしく小林秀雄の朦朧たる評論より価値あり)

中勘助の恋」富岡多恵子 (富岡の評論の最高傑作)

「母の恋文 谷川徹三・多喜子の手紙」谷川俊太郎 (ラストが凄い)

「フライパンの歌」水上勉 (田中英光をモデルにした友人も出てくる)

「移動祝祭日」ヘミングウェイ (私小説

「遅い目覚めながらも」阿部光子 (私小説の秀作)

「夢を売る男」百田尚樹 (自費出版業界の内幕)

「嗤う自画像」木村荘十 (直木賞作家の埋もれた佳作私小説

「人生なんて無意味だ」ヤンネ・テラー (現代海外文学の傑作)

吉行淳之介 人と文学」高橋広満(優れた研究者による過不足のない伝記)

復讐するは我にあり佐木隆三 (直木賞受賞作五本の指に入る)

「三角屋根の古い家」庄野至 (潤三の弟によるみずみずしい記録、名著)

「わが命の輝ける時」村上靖子 (天下の奇書)

「絆」小杉健治 (泣ける)

「文学運動のなかで」窪田精 (新日本文学会の重要な歴史証言)

「テレビ稼業入門」野末陳平(なるほどこれは名著、真実を書いて干された)

「虹と修羅」円地文子 (変形自伝私小説の傑作)

「片意地娘」パウル・ハイゼ (珠玉の短編集。翻訳もいい)

「春燈」宮尾登美子 (「櫂」の続き。ヒロインがとても魅力的)

宮尾登美子全集 第15巻」 (前半が白眉。ワナビは読んで泣け)

「素足の娘」佐多稲子 (これは名作)

「蘆花徳富健次郎中野好夫 (きわめて面白い伝記)

STAP細胞 残された謎」佐藤貴彦 (詳細な検討、第二弾「事件の真相」も)

「白衣の女 上・下」ウィルキー・コリンズ (これは面白い)

「永遠の妻」田辺明雄 (途方もなく不器用で不遇、ある意味壮絶な私小説

校閲ガール」宮木あや子 (すばらしい! 直木賞とってほしい)

「ぼくはきみのおじいさん」角田光代 (短くてすっきりしている)

「闇の中の石」松山巌 (連作思い出小説)

「星を継ぐもの」ジェイムスPホーガン (SFなのに面白い)

フェルマーの最終定理サイモン・シン (著者が妬ましくなるほどの名著)

柳美里不幸全記録」(優れた私小説

「男色」水上勉 (私小説仕立ての佳作)

「硝子障子のシルエット」島尾敏雄 (島尾ファン必読の不気味な日常もの)

「ツタよ、ツタ」大島真寿美 (何かが乗り移ったような書き方、解説もいい)

「ここは、おしまいの地」こだま (見事な文学作品、私小説