ザ・ストリート・スライダーズのベーシスト・ジェームズこと市川洋二氏による貴重な語り。今回はあの名盤、サード・アルバム「JAG OUT」について。
ロンドンで過ごした二週間はメンバーとゆっくり語り合ういい機会だった
デビューするときにスタッフから「デビューするということは、ローリング・ストーンズや松田聖子と同じ土俵に上がることだ」と言われた
そのときはピンと来なかったが、だんだんエンターテイメントとしてのプロ意識が生まれてきた 一方で反発心もあった
ロンドンから戻ってきてすぐに次のアルバムのセッションを始めた
今まではアマチュア時代のストックを出していたが、このころからほぼすべて(10曲くらい)新曲を作る必要が出てきた
ギターのリフやサビのフレーズを膨らませてセッションで曲を作っていく、今考えれば贅沢なレコーディングだった
個人的にはついていくのに必死で、限界を感じてキツくなり、いつ辞めようかとばかり考えているうちに辞めるタイミングを逃した
それまではストーンズに倣ってベースはアドリブでやっていたがこのアルバムからアレンジやフレーズをきちんと組み立てるようになった。当たり前の話だが、ストーンズがアドリブなのでそれがロックンロールだと思っていた。やはりストーンズは別格
曲調も幅広くなって、ストーンズ風ではない自分たちのオリジナリティーを追求
生活や性格も「洋二君」から「ジェームス」になっていった
親戚の集まりに顔を出さなくなったり、交友関係も変えて腹を括った時期
ソニーにデジタル・レコーダーが導入された(ほとんど世界初)
間違えたりズレたりすると大変だぞと脅された
山下達郎がスタジオにデジタル・レコーダーを見に来た
1.TOKYO JUNK
初っ端からテンション高い。僕の中ではファンキーな曲。ベースもソウル・ミュージックの影響を受けて跳ねた感じ。ハリーのギターのリフと蘭丸のギターが圧倒的で、それに対してのベースが大変で苦労があった
2.NO MORE TROUBLE
ストーンズ風ロックンロールだが、ベースのスイング感を出したかった
他のバンドでこういう渋いのは中々ないと思う
3.カメレオン
12インチのロングバージョンをLPサイズに縮めた
ファンキー。スタックス調のベースのノリをオリジナルなものにアレンジ
初のPVを作った(本物のカメレオンが出てくる)
4.OUT DOOR MEN
公平のリードボーカル。8ビートと4ビートのシャッフルの中間みたいな、マニアックなノリを追求。
5.PACE MAKER
最初はストーンズっぽいダンスナンバーだった気がするが(セッションでは放っておくとストーンズっぽくなってしまう)、コード進行がラテンぽいイメージがあったので、オリジナルなものにしていった
6.FEEL SO DOWN
レゲエ風。シャッフル感も意識して出した
7.EASY COME, EASY GO
リズムやコードはR&B的で、そこにウォーキング・ベースっぽいのを入れるのは中期ビートルズの影響。ストーンズ風から脱するためのやり方のひとつ
8.ALL YOU NEED IS CASH
普通にブギ―っぽくやったらストーンズ風になっちゃうから、かなりテンポを抑えた。演奏するのは大変だが、メンバーでシャッフル感を共有すればできる。スライダーズはテンポの遅い曲が多いが、遅くグルーヴィーに演奏するのは難しい。
9.ONE DAY
オープンGでマイナーを弾くのは相当難しい(らしい)。この曲も「脱ストーンズ」。ベースは緊張感をもって、気持ちを込めすぎずに淡々と。
10.チャンドラー
タイトルにどんな意味があるのかは謎。でかいスケール感。不良っぽい感じをどうやってサウンドで出すか、が僕のテーマだった。
デジタルレコーディングだが、録音スタイルは一発取りで何も変わらない。
周りの器は変わってもバンドの芯は変わらないというポリシーに助けられた。