村越HARRY弘明のセルフ・カヴァー・アルバム『GATEWAY』を入手して聴いた。
収録曲
01. のら犬にさえなれない (『SLIDER JOINT』)
02. Dancin' Doll (『がんじがらめ』)
03. カメレオン (『JAG OUT』)
04. Baby,途方に暮れてるのさ (『BAD INFLUENCE』)
05. 鉛の夜 (『がんじがらめ』)
06. PACE MAKER ( 『JAG OUT』)
07. あんたがいないよる (『SLIDER JOINT』)
08. すれちがい (『SLIDER JOINT』)
09. 風が強い日 (『BAD INFLUENCE』)
10. TOKYO JUNK ( 『JAG OUT』)
11. Angel Duster (『天使たち』)
12. Easy Come,Easy Go( 『JAG OUT』)
一聴しての感想は、武骨できまじめ。至極真っ当。昔の自分の曲をほとんど原形を留めないほど崩して歌うボブ・ディランのような人とは真逆のアプローチ。
ひとつひとつの曲に丁寧に向き合おうという姿勢が前面に出ている。思わず正座して聴きたくなる。
同時に、愛のあるセルフカバーである。愛といっても、自己愛(ナルシシズム)ではない。時折離人症ぎみになるハリーはここでも自作をまるで他人が作った凄い曲であるかのように歌っている。昔の自分に愛着しない距離感がある。ディランのような人はその距離感を崩した歌い方で示すわけだが(そんな風にしか歌えないともいえるが)、ハリーは職人が過去に自作した美術品を扱うような手触りで歌っているように感じる。
このアルバムについてのインタビュー((『Bridge』2008年5月号、渋谷陽一による)では、
「まあ………あの頃の曲の中にもいいのがあるしな、と思って。それを残しときたいなあと思って」
「何年か前に思いついた」
「歌ってみて、残すに値するかどうかを基準にした」
と語っている(ちなみにこのインタビュー自体は、渋谷が自分の思いをハリーに押し付けるような内容となっており(ハリーが語らなすぎるせいもあるのだろうが)、インタビュー記事としては不出来であると思う)。
普通のミュージシャンなら、こういうアルバムにはそれぞれの曲に対する丁寧な自作解説がライナーノーツにつくのだが、ハリーは曲名以外に何も表記しない。聴けばわかんだろうよ、と。確かに聴けばわかるのだし、スライダーズやハリーのファンにはそれぞれの曲にそれぞれの思いがあるはずだから、「この曲はこんな気持ちで書いた」とか「こんな風にできた」なんて本人による解説は邪魔なだけなのかもしれないし、曲についての細かい情報なんてのも必要ないのだろう。
それでもどうしても気になったことを書かせてもらえば、最初の三枚のアルバム(『SLIDER JOINT』、『がんじがらめ』、『JAG OUT』)から全12曲のうち実に9曲が選ばれているということである。
スライダーズはスタジオアルバムを10枚出している(ベスト盤やライブ盤を除く)が、『GATEWAY』には上記三枚以外に『天使たち』と『BAD INFLUENCE』からそれぞれ1曲と2曲が入っているだけで、あとの5枚の曲は含まれていない。つまり『SCREW DRIVER』以降の曲はまったく取り上げられていないのである。
ここからハリーの何らかの意志を汲み取ることは可能だろうか。
個人的な注目点は、 「鉛の夜」(『がんじがらめ』収録)が取り上げられているということである。ジェームズは自身のYouTubeチャンネルで「この曲はライブでやったことがない」「この曲の雰囲気をライブで出すのは難しい」と言っていた。
あとは「Angel Duster」で蘭丸のサビのコーラス部分をハリー自身が不似合いな高いキーで歌っているのにちょっと驚いた。こういうところを原曲に忠実にやるのがハリーらしい生真面目さだと思った。
一曲目に「のら犬」をきっちりやるところもハリーらしい。
ハリーが「残しておきたい」と思って歌った歌がここにある。
それを聴けることの幸福を噛み締める。