1997年にシングル「Shinin' You」のカップリングで発表された「いつか見たかげろう」は、スライダーズ後期の名曲の一つ。
今春のスライダーズ再結集ツアーでも演奏されている。
スライダーズはこの曲の3年後に解散してしまうのだが、この頃にはもうその兆候のようなものはあったのかもしれない。
スライダーズ解散の原因は、音楽的にもっと冒険したいという蘭丸と他のメンバーとの方向性の違いにあったと言われている。
それを「蘭丸のせい」と片づけてしまう見方もあるが、自分には蘭丸の気持ちはよくわかる。ずっと同じパターンの演奏を続けていくとどうしても弛緩してしまう。
70年代ストーンズとブルースをベースにしながらも、ファンクやポップスへの指向性も見せていた蘭丸は、スライダーズの音楽性の発展にポジティブな刺激を与えてきた。
「991/2」や他のバンドへの参加、そしてとりわけ「麗蘭」での活動が、スライダーズ以外の場所で自分の可能性を広げていきたいという思いを強めたのだろう。
新しいことをやりたいという蘭丸と、己のスタイルを貫くことに美学を持つハリーとの価値観の違いはいつか決裂する運命にあったともいえる。
スライダーズのセールスもこの時期は低調で、アルバム収録曲の歌詞の一部を削除されるなど、レコード会社との関係がうまく行っていないこともあっただろう。
逆にそういう時期だからこそ踏ん張って耐えることが大事だったとも言えるのだが、ハリーは蘭丸抜きのスライダーズを続けることを潔しとしなかった。
「いつか見たかげろう」は懐古的なロックンロールで、後期スライダーズ(この時期のハリー)にとって象徴的ともいえる歌詞と楽曲である。
時に埋もれちまった奴らの声が
この街角に聞こえるよ
俺達の髪を巻き上げた
あの風が愛しい
といったフレーズは、過去のいくつもの楽曲を思わせる。
「時」「街角」そして「風」。
とりわけ自分なんかは「Angel Duster」を連想するのだが。
「Angel Duster」は、ハリーが初めて「シングルで勝負できると思った」思い入れの強い曲でもある。
もう一度無邪気にはしゃいでくれよ
Take a baby 忘れちまったかい
俺達に優しかったかげろうは
あの夜のままに今も揺れてるさ
無邪気にはしゃいでいた時代の終わりと、それでもロックンロールは死んじゃいないさという祈りにも似た思いが籠っている。
「いつか見た」ということは「今は見ていない」ということである。
ロックンロールのほうは変わっちゃいないのに、俺たちが変わっちまったから見えねえのさ、と言っている。
軽快に歌われるがけっこうヘヴィーな歌詞ともとれる。
もう一度マジな涙流せよ
Take a baby お前に見えるかい
俺達に微笑んでたかげろうは
真昼の街角に今も揺れてるさ
これは誰に向けた歌詞なのか?と思い詰めるのは危険だから止めておこう。
80年代をスライダーズと共に過ごしたファンたちに向けて歌っていると思うのが一番いいのだろう。
2024年の今、ハリーがこの曲を再結集スライダーズのライブで歌うのを選んだということに深い感慨を覚える。