『ビートルズシークレット・ヒストリー まるで今ビートルズがここにいるみたい』
(アリステア・テイラー、プロデュースセンター出版局、2003年)
『ジョン・レノンに恋して』(シンシア・レノン、河出書房新社、2007年)
どちらも書店では入手できず高値がついている。図書館で借りて読んだ。
アリステア・テイラーは、ブライアン・エプスタインの個人秘書で、エプスタインがビートルズを「キャヴァーン」で初めて見たときに一緒にいた。マネージメント契約書にメンバーと一緒にサインした(エプスタインはサインしなかった)。
その後も、「ミスター何でも屋」としてビートルズのメンバーのためにあらゆることをした。女性との示談、事故の処理、買い物の手配、メンバーの不動産の取得、護衛、警備、リフォーム、小道具の手配、その他無数のこと。
そういう人間の内輪話だから、ビートルズについて何でも知りたいという人にとっては大好物なエピソードばかりの一冊である。
彼はブライアン・エプスタインの自宅で彼の遺体を最初に見た人の一人で、ジョンに言われてアップルの社長になった後、アラン・クラインに解雇された。そのときメンバーに電話したが誰も出なかったという。
この本を書いたときには生活保護を受けて暮らしていたらしい。
シンシア・レノンはジョン・レノンの最初の妻で、ジョンと美術学校の同級生(歳はシンシアの方が一つ上)だった。ビートルズ人気が沸騰する以前に妊娠がきっかけで結婚している。
この本(原題『John』)は、長い間耐え続けてきたがもうすべてを書くことにした、という覚悟と気迫が感じられる長大な書物で、読み通すのはかなりヘヴィーである。
ジョンと知り合い、結婚し、ビートルズがスターダムに上り詰めるまでの話は瑞々しい青春映画を見ているかのような高揚感があるが、後半、ジョンとの間に溝ができ、ヨーコの出現により離婚に至るまでの話は、まるでヨーコという日本の小さな妖怪かエイリアンが侵入してきたような書かれかたをしていて、読んでいて恐ろしい気分になり、サイコホラーみすら感じる。
アリステアもシンシアも、いわばビートルズ(ジョン)との関係を一方的に断絶され、冷酷に切り捨てられた立場にある。もっと恨みつらみがあってもいいはずだが、そこはぐっとこらえているのか、長い年月の間に諦念に変わったのか。
シンシアが70年代に書いた本の時は出版停止の訴訟を起こしたヨーコが、もっと踏み込んでいる2005年のシンシアの本については何もアクションを起こさなかったというのも、歳月のなせる業か。
スチュワート・サトクリフにせよピート・ベストにせよ、大きな成功の裏には必ず深い影がある。アリステアもシンシアも、ビートルズ物語の影の部分の登場人物だろう。
そして表に立つそれぞれのメンバーも、その背中に影を背負っている。その闇は時折表にも顔を覗かせる。
ジョンは凶弾に倒れ、ジョージも暴漢に襲われ、その数年後に癌で逝去した。
ポールとリンゴが今日まで生き延び、最後の曲「NOW AND THEN」を発表できたと言うこと自体が奇蹟のようなものだと思う。
地球に生まれて良かったことの一つがビートルズを聴けることだといつも思っている。