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Welcome to the Mystick World of GONG

これも先輩からもらったレジュメの書き起こし。作成日1989年12月6日。

元の文書は特徴ある筆跡による丁寧な手書きで記されている。

高校時代までロッキンオンを読んでプリンスとエレファントカシマシばっかり聴いてたような僕にカンタベリー・ロックやゴングやヘンリー・カウの素晴らしさを教えてくれた先輩には今も感謝している。

 

Welcome to the Mystick World of GONG

1 まず簡単に説明をするのだ

Gong創始者Daevid Allenはオーストラリア、メルボルンの出身で、1938年1月13日の生まれだからもうすぐ52歳になる。死んだという情報は流れてこないからまだ生きてるのだろうけど、今後音楽活動で第一線に躍り出ることはないだろう。

彼は60年代にイギリス、次いでパリに渡り、そこでアメリカの作家ウィリアム・バロウズと知り合う。イギリスで知り合ったミュージシャン達とグループを結成し、バロウズの作品名からThe Soft Machineと名付けて活動を開始し、フランスで公演を行うが、国籍が異なる彼は、麻薬歴などによりイギリスへ戻るヴィザが下りず、グループを脱退してそのままパリに留まる。

次いで彼は妻Gilli Smythや、乞食だか芸術家だかわかんないような連中と音楽活動を行うようになるが、68年5月の5月革命に巻き込まれ、やむなくパリをいったん離れる。

まあこういったことは日本盤のレコード解説などに書いてあるし、知ってる人にとってはどうでもいいことだろうけども、折角だからつきあって下さい。以上の経緯については今年7月に出た日本盤CD Camembert Electrique (+Magick Brother)の解説にくわしく書かれているのでそちらを参照して下さい。

今年になってからGongの作品が続々リリースされ始めているので嬉しい。AllenがBBCでラジオドラマをやっていた時のテープや、プライヴェート・セッション等を収録したThe Mystery and the History of the Planet Gong。多分1988年の録音と思われる作品The Owl and the Tree/Allen ,Smyth, Harry Williamson。未発表ライブ Live-1973。Pierre Moerlen's Gongの新譜らしきものも出たようだが、これは無視していいだろう。

日本盤では Camembert ElectriqueとMagick Brotherのカップリング、Live Floating Anarchy/Planet Gongと About Time/New York Gongのカップリングの2枚が出たが、収めきれなかったため、それぞれ2曲、それも最後の2曲ではなく、適当に抜き出して、National Healthの1stと2ndにそれぞれ付け加えているのはどうにも解せない。パイオニアから発売されたけど全く大外れだった6連奏CDプレーヤーを持ってる人がいたら本領発揮したかもしれない。蛇足だけれども、6連奏CDプレーヤーのCMに出てたお姉ちゃんは昔ドラマ「桃尻娘」で主演してた人だと思うんだけど、もし名前を知ってる人がいたら教えてください。

 

2 初期のGong

パリに戻ったAllenとSmythはBYGレコードと契約し、デヴューアルバム Magick Brotherを発表する。このアルバムには、今後Gongのメンバーとして活動するDidier Malherbe(sax)の他、Barre Phillips(b)、Burton Greene(p) といった前衛ジャズ・ミュージシャンが参加しているが、メンバーは流動的だった。

次いで彼は Banana Moon というバンドを結成し、アルバム Banana Moon を発表する。サウンドはGongよりロック寄りで、Robert Wyatt (ds,vo)、Gary Boyce(g), Christian Tritsch(b,g) などが参加している。かつてSof Machineでやっていた Memoriesを再演しているのが興味深い。

この後AllenはGongをパーマネント・グループ化することを決意する。71年 Gong avec Daevid Allen の名でフランスのドキュメント映画 Continental Circusサウンドトラックを手掛け、同年アルバム Camembert Electrique を制作する。アルバム全体的にまとまりすぎていて、やや単調な印象を与えるのが難点だが、歌詞、演奏については非常にすばらしく、独特のスペイシー・サウンドは本作において確立したといえよう。

彼らはこの頃よりミッシェル=マーニュの牧場で共同生活を行うようになり、満月の夜を選んでレコーディングするようになった。彼らはAllenの唱えるユートピア思想を信じ、トリップと儀式によって連帯感を深めていった。

また同じ頃、Dashiell Hedayatのアルバム Obsolete にGongのメンバーが全面的に参加していて、ここでもGongサウンドを味わうことができる。

 

3 目に見えない電波の精―Radio Gnome Invisible

1972年暮れ、Steve Hillage(g), Tim Blake(synth) が加入する。HillageはKhan解散後、Kevin Ayers のグループ Decanance に在籍していたが、Allenの思想にひかれてGongに参加するようになったのである。彼はギターとは思えないようなスペイシー・サウンドを修得し、以後Gongサウンドの中枢を担うようになる。

Blakeについては、過去の経歴は不明。在籍中はHi T Moonweed等とクレジットされ、脱退するまで本名が明かされなかったというクセ者だ。ドラムはしょっ中入れ替わり、Pip PyleChris Cutter、Bill BrufordCharles Haywardが在籍していた時もあったが、 Flying TeapotではLarie Allan、Angels Egg, YouではPierre Moerlenが叩いている。ベースはTeapot が Francis Moze、後2作は Mike Howlettとなっている。

レコードには各メンバーが偽名でクレジットされるようになった。例えばDaevid AllenはDingo Virgin、Gilli SmythはShakti Yoni、Steve HillageはHillside-Villageといった具合に。

こうしたラインアップでRadio Gnome Invisible3部作が発表される。3枚のアルバムで1つの物語を成していて、そのあらすじは、惑星ゴングからやって来たラジオの精が、愛のヴァイブレーションを求めて地球上をさまよい、様々な登場人物と遭遇するが、最後には、ユートピアなるものは自分の内にあることを悟るというような話だが、非常に難解で、話が脇道にそれたり挿入を多用したりしているので、あまり深く考えない方が身のためだろう。くわしく知りたい人には日本コロムビア盤 Youの解説や Fool's Mate Vol.17「ゴングの象徴哲学」のコピーサーヴィスをします。

サウンド的には、 Flying TeapotはまだCamembertの延長上、といった感じだが、You の頃になると、主導権はHillageやMoerlenへと移り、クロス・オーヴァーへの接近もうかがえる。そしてYouの発表後AllenとSmythはグループを去ってしまう。その前に Tim Blakeも脱退し、Gongは上半身がもぎ取られた格好になった。Gong est mort. Allenは自ら築いた神話を放棄してしまった。1975年の春である。

 

4 その後

それでもGongは生き残った。76年アルバム Shamal をリリースする。主導権を握ったのは一時脱退していたPierre Moerlenであった。Hillageのギターも数曲で聴かれるだけで、グループは明らかにクロスオーヴァーフュージョンを指向していた。そしてHillageも脱退する。後任はAllan Holdsworth。77年 Gazeuze! を発表後、最後のオリジナル・メンバーDidier Malherbeも脱退する。78年のアルバム ExpressoⅡがGongの4文字の名によってリリースされた最後のアルバムとなり、以降グループはPierre Moerlen's Gongと改称して現在に至っている。今年になって新譜が出たようだが、誰かがパパになってくれるなら聴いてみてもいいと思う。

Steve Hillageは脱退後Virginより Fish RisingL、Openのソロアルバムを発表した。スペーシー・ギターは相変わらず健在だが、所詮彼はGong思想の体現者ではなかった。Tim Blakeもソロ・アルバムを出しているけどジャケットしか見たことがない。

LはドノヴァンのHardy Gardy Manをカヴァーしてたり、Don Cherry(tp)が参加してたりしてるので、まあそこそこ楽しめたと言っておこう。

Daevid Allenはスペインに籠り、スペインのグループEuterpeをバックに Good Morning!をリリースする。A面はアコースティックサウンドによる心温まる世界、B面は往年のGongらしさをうかがうことができる。

その後子飼いにしていたHere&Now BandをPlanet Gongと改称し、Live-Floating Anarchy 1977をリリースする。初期Gongに近いサウンドで、なかなか力の入った演奏が聴ける。

ソロ・アルバム Now Is The Happiest Time of Your Life を発表後、ニューヨークへ渡って New York Gong を結成し、79年にアルバム About Time とシングルを制作する。

何よりも興味深いのは Bill Laswell(b), Michael Beinhorn(synth)といった、後にMaterialを結成する連中が参加していることである。何で知り合ったのか知らないけど、すごいなあ。サウンドはMaterial風のヘヴィーなリズムと、Allenのサイケデリック調のメロディーがうまく融合していて、恰好よく仕上がっている。Allenはこの時のセッションのリズム・トラックだけを抜き出し、新たな歌とギターをかぶせてアルバム Divided Alien Playbox80 をリリースしている。

Gilli SmythはNew York Gongとほぼ同時期に Mother Gongを結成、アルバム Robot Woman では相変わらずのスペース・ウィスパーが聴ける。

 

5 補足

ライブ・アルバムの紹介をしよう。最も初期のものでは Electric Score というV.A.の3枚組に収められているが、これを入手するのはあきらめた方がいいそうだ。73年に出たV.A.2枚組 Greasy Truckers Camel, Henry Cow, Global Village Trucking Co, Gongのライブが片面ずつ収録されている。

また、今年になってフランス盤で1973年のライブCD(またはLP2枚組)が出た。 Radio Gnome時代に契約をしていたVirginレーベルからは、74,75年の演奏を集めた Live etcが77年にリリースされた。皮肉な見方をすれば、この2枚組アルバムで最も面白いのは、Daevid Allen 脱退後のライブを収録したD面である。You の Master Builder をAllen抜きでやるなんて涙が出てしまう。

1977年には、Planet Gong による Live Floating Anarchy 1977 そして同年、たった一度だけ旧メンバーによる再編コンサートが行われ(!)、その模様が2枚組アルバム Gong est mortとして出たそうだが、もし見つけることができたら頑張って買いたいものだ。

Pierre Moerlen's Gongのライブもあるようだが、まあいいだろう。

 

6 最後に一言言わせておくれよ

紙面の都合上、Gongのイロハ程度しかできず、また惑星Gongへの導師としては不十分な知識しか持ち合わせていなくて、いい加減なことしか書けなかったけど、その概要程度なら理解して頂けたのではないかと思う。このグループもたいていはプログレの一派として扱われているし、確かにサウンド的には類似点を見出すことはできるけれども、それでもいわゆるプログレとは一線を画す存在であることは明らかであろう。

Allenはあまりにも早く生まれすぎたのかもしれない。彼の内向的なユートピア思想は、システム化された社会に疎外感を感じ、さりとて万民との連帯を信じることもできない現代においてこそ必要とされているのかもしれない。

それにしても、 Radio Gnome3部作がCD化されないのは何故だろう。Tangerine DreamのVirgin時代の作品がCD化されてるくらいなのだから、Gong やHenry Cowにもその資格は十分あると思うんだけど、くやしいなあ。

 

プレイリスト

1  Ego  (「Magick Brother」 1969 BYG)

2  It's Time of Your Life  (「Banana Moon」 1970 BYG)

3  Memories (同上)

4  Stoned Innocent Frankenstein (同上)

5  Blues For Friday (Continental Circus 1971 仏PHILIPS)

6  Radio Gnome ~ You Can't Kill Me (「Camembert Electrique」 1971 BYG)

7  Fille de l'ombre (「Obsolete/ Dashiell Hedayat」 1971 Shandar)

8  Radio Gnome Invisible (「Flying Teapot」1973 Virgin)

9  Flying Teapot(同上)

10  The Pot Head Pixies(同上)

11  Other Side of the Sky (「Angels Egg」1973 Virgin)  

12  Selene (同上)

13  I Niver Glid Before(同上)

14  Thought for Naught~A P.H.P.'s advice~Magick Mother Invocation~Master Builder

      (「You」1974 Virgin)

15  You Never Blow Yr Trip Forever(同上)

16  Children of the New World (「Good Morning!」1976 Virgin)

17  Expresso (「Gazeuze!」1977  Virgin)

18  Opium for the People (「Live Floating Anarchy 1977」Charly) 

19  Much Too Old (「About Time」1979 Charly) 

20  Unseen Ally (「The Owl and the Tree」1988? DEMI MONDE)