INSTANT KARMA

We All Shine On

An Introduction to Canterbury

学生時代に先輩からもらったカンタベリー・ロックについてのレジュメを書き起こしてみる(この文章が書かれたのは1989年7月28日である)。

 

1 カンタベリージャズロックについて

 カンタベリージャズロックという名称は、この一派に属するアーティストの多くがカンタベリー出身であったことに由来する(カンタベリーというのは英国教会の総本山がある、ケント州の都市)。一般的にはプログレッシヴ・ロックの一種として分類されるが、クラシカルと評されるプログレッシヴ・ロックの中にあって比較的ジャズの要素が濃く、Keith TippettNucleusといったブリティッシュ・ジャズのアーティストらとも深いかかわりがある。もちろん、ロックっぽいのからジャズっぽいのまでいろいろあるわけだが、共通した特徴として、オルガンの多用、組曲構成、インスト部分が長いことなどが挙げられる。メンバーの個性が強いため、メンバーチェンジ・離合集散を繰り返し、その中心的存在も Soft Machine→Matching Mole→Hatfield And The North→National Healthといったように変遷していったが、「〇〇というグループの×××と△△というグループの□□□で※※を結成した」の繰り返しで、新顔がほとんど現れなかったせいもあって、70年代後半にはすっかり衰えてしまい、現在も第一線で活動している人はほんのわずかになってしまった。Dave Stewart(ユーリズミクスの片割れじゃないよ)がBarbara Gaskinと組んでシングル・ヒットを放ってはいるけど往年とはサウンドがかなり異なるし….。

 よくジャズ・ロックを「フュージョンの初期形態」と定義する人がいるけれども、それが間違いであることをこの場を借りて主張したい。ジャズロックとは「ロックのリズムを用いたインプロヴィゼーション」であり、それはロックからでもジャズからでもアプローチは可能だけれども(例証省略)、フュージョンは内在的な曲形式とリズムの体系を持った、かなり独立した音楽ジャンルとみなせるんじゃないかと…というような不毛な話はやめにして、まあ適当に聴いて下さい。Soft MachineRobert Wyatt、Kevin Ayers、Henry Cowといったところはそれだけで特集が作れるのであまり入れませんでしたがご了承を。おまけとしてSoft Machineの3枚組ベスト Tripple Echoのブックレットの人脈図を付けておいたので、字が読みづらく、1977年までしか載ってませんが、よかったら参考にして下さい。あ、それから、ジャズ・ロックとフュージョンの違いは、定義域の中心部が違うということであり、境界はかなり曖昧です。しつこいですね、私も。

 

2 Soft Machine

A-1(曲順を表す。以下同)As Long As He Lives Perfectly Still (Volume Two,1969)

1966年、Daevid Allen(g), Mike Ratledge(key), Kevin Ayers(b.vo), Robert Wyatt(ds.vo)の4人で結成。 フランス・ツアー後、オーストラリア人のAllenは麻薬所持でイギリスに再入国できず脱退。3人でアメリカに渡り、1stアルバムをリリース後(4人の時にも1枚録音していて後にリリースされる)いったん解散するがやがてRatledge,Wyatt,Hugh Hopper(b)の3人で再結成、2ndアルバムをリリースする。この後Elton Dean(sax)を加えてフリージャズに接近するが、その後もメンバーチェンジを繰り返し、Deanの代わりに加入した Karl Jenkins(sax,oboe,key)が主導権を握った後はフュージョン色が濃くなり、結成当時のメンバーが一人もいなくなる。1981年ごろ自然消滅。 Allan Holdsworth(g)が73~75年に在籍していたのは有名だが、 Andy Summers(g)が67~68年ごろパートタイムで弾いていたのは案外知られていない。

 

3 Caravan

A-2 Winter Wine (3rd In The Land of Grey and Pink, 1971)

A-3 As I Feel Die (2nd If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You, 1970)

グループの前身は1963~67年のWilde Flowersで、このグループにはR.Wyatt, K.Ayers,H.Hopperも参加していた。68年にDavid Sinclair(key), Richard Sinclair(b.vo), Pye Hastings(g.vo),  Richard Coughlan(ds)によって結成。オルガンを中心とした牧歌的なメロディーを特徴としている。3rdアルバムをリリース後、D.Sinclairが脱退、元DeliveryのStephen Miller(key)が加入して、4thアルバム 「Waterloo Lily」を発表するが、 R. Sinclair,S.Millerが脱退、解散の危機に直面する。しかしベースとオルガン奏者を雇ってツアーを敢行、Hastings, Coughlanを中心にグループを再編成し、次第にポップ化してゆく。80年に解散。しかし82年にオリジナル・メンバーでアルバムを1枚リリースしている。

 

4 Matching Mole

A-4 O Caroline (1st Matching Mole,1972)

A-5   Part of Dance (同上)

Robert Wyattを中心に、Bill MacCormick (b,元Quiet Sun),Phil Miller(g,元Delivery), Dave Sinclair(key,元Caravan)、Dave MacRae(key)で結成。2枚のアルバムをリリースしている。 即興演奏を多用したフリー・ロックを追求している(A-4は例外)。Wyattは事故により下半身不随となり、グループは解散。WyattはVirginレーベルで2枚のソロ・アルバムを発表後4年間レコーディング活動を停止する。

 

5 Egg

A-6 A Visit to Newport Hospital (2nd The Polite Force,1970)

Steve Hillage(g),  Mont Campbell(b.vo),  Dave Stewart(key),  Clive Brooks(ds)の4人で Urielを結成。Hillageが学業に専念するため脱退し、3人はEggと改名する。StewartとCampbellの指向性が異なり始めたため、2枚のアルバムを残して解散。しかしこれまた74年に再結成し3rd The Civil Surface を発表している。

 

6 Gong

A-7 Oily Way~Outer Temple~Inner Temple (5th Angel's Egg, 1973)

Radio Gnome Invisible 3部作の2作目。前作より参加したSteve Hillage(g)がスペイシーなギターを披露している。Gongはそのうち特集でやりたいよ~。

 

7 Khan

B-1 Driving to Amsterdam(Space Shanty、1972)

Steve Hillageが学業を終えて復帰して結成したグループ。 Hillageと一緒に演奏したがっていたDave Stewartが友情出演しているが、残りの2人のメンバーはほとんど無名で、結局この1枚のアルバムを発表して解散している。Hillageはこの後Gongに加入(おっとその前にKevin Ayersの「Bananamour」に参加してた)するが、Gongにおけるスペイシー・ギターの原型を聴くことができる。

 

8 Hatfield And The North

B-2 The Stubbs Effect~Big Jobs (1st  Hatfield And The North、1973)

B-3 Aigrette~Rifferama (同上)

B-4 Licks for the Ladies~Bossa Nochance~Big Jobs No. 2 (同上)

B-5 Lounging There Trying (2nd The Rotters' Club、1975)

カンタベリーを語る上で欠くことのできないグループ。Caravanを脱退したRichard Sinclair(b,vol)、Steve Miller(key)、元Matching Moleの Phil Miller(g)、元Gongの Pip Pyle(ds)によって結成。すぐにS.MillerはDavid Sinclairに代わり、やがてDave Stewartにまた代わって、この4人で2年半の間に2枚のアルバムをリリースする。端正な曲形式を崩さずに、アンサンブル、即興演奏、Richard Sinclairの歌、女性コーラスなどの要素を取り込んでいる。1stアルバムは各メンバーが持ち寄った曲をつないで組曲に仕立てている。そのためブツ切りを3つ並べて聴くと違和感を感じるかもしれないけどご勘弁を。2ndからはPhil Millerのギター・ソロをフューチャーした曲を入れた。

 

9 Gilgamesh

B-6 We Are All / Someone Else's Food / Jamo And Other Boating Disasters(1st 1975)

B-7 T.N.T.F.X(2nd Another Fine Tune You've Got Me Into,1978)

Hatfield And The Northとほぼ同時期に活動したグループ。vo.の有無を除けばサウンド的にも類似していて、実際両グループは頻繁に交流していた。 Alan Gowen(key)、Phil Lee(g)、Mike Travis(ds)の3人は固定していたが、ベーシストが流動的で(というより人材不足だったんでしょうね)1stアルバムでは元NucleusJeff Clyneが弾いている。1stを発表後、GowenとLeeはHatfield And The NorthのDave Stewart、Phil Millerらと共にNational Healthを結成する。しかしジャズを指向した2人は相次いで脱退し、Hugh Hopper(b),Trevor Tomkins(ds)と共にGilgameshを再結成して2ndアルバムをリリースする。1stよりもはるかにジャズ色が濃くなり、1stでは無理して(?)ロックしていたPhil Leeも本来のジャズ・ギターのプレイに戻っている。Gowenは再びNational Healthに復帰するが、81年5月17日白血病で死去している。

 

10 Henry Cow with Slapp Happy

B-8 War (4th In Praise of Learning,1974)

Henry Cow Slapp Happyについての説明は省略(別特集にて)。

 

11 National Health

B-9 The Bryden Two-Step (For Amphibians), Pt. 1 (2nd Of Queues and Cures、1978)

結成当時はメンバーが流動的で、上記の4人にMont Campbell(b), Bill Bruford(ds)でスタートしたが、Leeが去り、ベースがNeil Murray(元Colosseum、後にWhitesnake)、ドラムがPip Pyleに代わってようやくデビュー・アルバムをリリース。Gowenが参加した3rdアルバムは彼の死後発表された。