INSTANT KARMA

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夏休み日記

そんなことを言われても、どうしようもない。夏休みのバイトを探し続けて、ようやく見つけたのが美術館の展示品を運ぶバイト。朝の6時から夕方の8時までほぼまる一日拘束されて日給1万円(消費税含む)。弁当支給されるにしたってこれって最低賃金法に反してないか? と疑問に持つ人は周囲を見渡してもあまりいないようだった。

朝、珍しく早起きして電車を乗り継ぎ集合場所である上野公園に行ってみると、手ぶらで暇そうな学生風の男たちが20人ほど集まっていた。ほぼ全員がスマホ片手に画面とにらめっこ状態である。朝からえげつないサイトばかり見て喜べる神経が俺には分からないし、ラインやSNSばっかりやってるとノイローゼ気味になり神経症まっしぐらに決まっているからスマホは人間悪の根源であるという持論を頑なに持ち続けているせいで、いまだにガラケーである。

突然アントニオ猪木を髭面にしたような小柄な男が現れると、腹立たしげな表情で「こんなことじゃ困る」的な文句を言い出した。それはそれとして皆で美術館に入る。いかにも現代アート風の訳の分からないオブジェが梱包されてトラックから積み出されてくるのを数名で受け取って運び、そのまま指示に従って館内に配置するというお仕事だ。

汗だくになりながら、美術館の裏門にある駐車場から搬入口まで歯を食いしばって歩く。都内では午前中に38度を越えた。こんなことをするために生まれて来たんじゃない、と自分に言い聞かせながらも、ある意味で割のいいバイトだよな、と内心ニンマリする。

昼食時に隣で肉体を苛め抜いている雰囲気を漂わせている学生バイト風の男に話しかけ、イスラム国メンバーによる国内テロの可能性について気さくに語り合おうとしてみたのだが、さっぱり要領を得ない。仕方なく話題を変えて田中角栄の再評価の動きの胡散臭さについて指摘すると途端に目が輝いた。石原慎太郎の『天才』こそが史上最悪の書物であり金さえあれば全部買い占めて廃棄処分にしたいくらいだと意気投合してしまう。メルアドを交換して爽やかに別れのあいさつを交わした時には、もう休憩時間は終わる頃合いだった。

午後になっても割のいい退屈な作業は続き、猛暑もサウナの一種と思い込むことにすれば耐えられなくもなかった。気になったのは、いつまでも美術館の展示室の片隅にいる中年女性の存在だった。美術館の職員という風にも見えず、上下ユニクロ風のトレーナー姿でだらしなく床に寝そべったり、壁にもたれて座り込んだままスマホの画面とにらめっこしている。ある視点からは、やるべきことが無さすぎて精神を病んでいるようにも思われた。気軽に声をかけられるような雰囲気でもなく、相変わらず小柄なアントニオ猪木のような髭面の現場責任者が睨みを利かせているため、気になりつつも黙々と作業に励むしかなかった。

そのままどうということもなくバイトが終わり、取っ払いの日銭を受け取って、「射精が快感でなく苦痛を伴うようになれば、きっと人類は滅びる。そのことだけは唯一確かなことだ。自分の正反対の思想の持ち主である小林よしのりですらこれには同意するに違いない」と心の中で呟きながら公園を歩いていると、野良猫が歩いているのを発見。思わず駆け寄って抱きしめようとするが逃げられる。とてもじゃないがガラが悪すぎる。やっぱりうちの猫は野良猫とは気品がぜんぜん違う。この件につき衆議院議長への手紙をしたためようとするがやっぱり断念。