「あたしたちはこんなことをしてる身分じゃないわ」彼女は言った。
「まとめて400ペソというお金がどれほどか、考えてみてちょうだい」
「もうすぐ恩給がくる」大佐は言った。
「15年も前からあなたは同じことを言ってるじゃないの」
「だから」大佐は言った。
「これ以上うんと遅れるわけはないんだ」
彼女は黙った。しかし、もう一度彼女が話しかけてきたとき、大佐には時間がぜんぜん経っていないように思われた。
「そのお金は結局来ないような気がするわ」彼女は言った。
「くるさ」
「もし来なかったら?」
ガルシア=マルケス『大佐に手紙は来ない』を読む。 決して来ない軍人恩給の通知を15年待ち続ける、かつて革命に身を投じた老人(大佐)とその妻の話。 とにかく文章が詩的で美しい。これ以上ないほどリアルな現実を描いているのに、まるで夢を見ているような文体にうっとりする。 そして、これほど異常で、これほど感動的なラストの一行は見たことがない。 魔法のような小説とはこのことだろう。