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Mayte Garcia回想録(7)

トミー・リーは魅力的な人だったが、前妻(パメラ・アンダーソン)との間に二人の子供がいて、仲良くやっていた。マイテはまだ自分の子供を欲していて、それが再婚を思い留まらせた。別れは悲しかったが、今でも良き友人同士で、プリンスが亡くなったときにはお悔やみのメールをくれたという。

ある夜、何年かぶりに、たまたまどこかの店でプリンスと出くわした時、マイテは「やあ、プリンス。最近どう、プリンス?」と言ってやった。

「どうして僕をプリンスと呼ぶんだ?」と彼は言った。マイテは結婚してから彼のことを「プリンス」と呼んだことは一度もなかった。彼はインタビューで、「僕が家にいてキッチンから『プリンス〜』と呼ぶ声が聞こえたら驚いて紅茶をひっくり返すだろうな」と言ったことがある。

2006年にプリンスがマニュエラと離婚したと知ったときマイテは全然驚かなかった。驚いたのは、その直後にマニュエラがマイテに連絡を取ってきたことだった。「ペイズリー・パークの倉庫にあなたの私物があるから持って行ってほしい」という連絡だった。

マイテは最初SNSから来たその連絡を信じられず、なりすましだと思い、「私が間違いなくあなただと分かるものを示してください」と返信した。

彼女は「靴下(Tubesocks)」と返してきた。マイテはそれを見て爆笑した。その意味はプリンスを実際に知っている人にしか分からないものだったからだ。

マイテはこう返信した。「私はあなたに敬意を持っていません。私はあなたに会ったときにあなたをどうやって殴るかをいつも考えています」

マイテが再び驚いたことに、マニュエラは「本当にごめんなさい」と送って来た。

それから長いことやり取りをして、マイテはマニュエラが、かねがね思っていた通り、プリンスのお眼鏡にかなうだけの賢さと強さと優しさを備えた女性であると思った。だが彼女が一線を越えたことは確かで、彼女に対して複雑な思いを持つことははどうしようもなかった。

2016年4月に、プリンスが亡くなったことを最初にマイテに知らせてくれたのはマニュエラからの電話だった。マニュエラは今では再婚相手との間の二人の子供を持つ母親である。

2006年11月にマイテは再びプリンスと長い会話をした。彼女がプリンスに「もうあなたのことを許そうと思う」という長い手紙を書いたら、彼が電話してきたのだ。

「これから二人が出くわしたときにお互い変な思いをしたくないの」とマイテは言った。

「変には思わないけど、僕の方では」とプリンスは言った。

「そう、それはよかった」とマイテは言った。

「マニュエラと話をしたわ」

「何だって? どうして? それはやめてくれよ」

「彼女はいい人ね。もういいのよ。昔の話よ」

プリンスは長いため息をついて、言った。「時間とは何だと思う?」

「雑誌(「タイム誌」)のことね」

「相変わらず面白い人だね、きみは」

「そう?」

「僕は時間というものを信じない。時間というものを信じないかぎりそれは存在しないんだ。その力を認めなければ、時間は僕たちを支配する力を持たない」

「時間は力をもつわ」マイテはわざと皮肉な調子で言った。「私の胸を見てご覧なさいよ」

プリンスは爆笑した。マイテはまだ彼を笑わせることができることに満足した。

「僕の見る限り、きみはうまくやってるみたいだね」

「ええ、まだ『プレイボーイ』のグラビアの誘いがあるのよ」

「やめとけよ!」

「冗談よ」

プリンスはまたスピリチュアルな話題に戻り、ダライ・ラマのようになりたいとか、誕生日を祝わないから自分は年を取らないのだというようなことを言い始めた。

「もうやめてよ」マイテは遮った。「あなたも私も人間。みんな年を取るの。寝て、食べて、息をしないといけないの。それで幸せを味わえるなら、誕生日を祝うことの何がいけないの?」

プリンスはしばらく黙った後、「きみは、誕生日はどうするの?」と訊いた。

「ヴェガスにいるわ」

「僕のショーを見に来るかい?」「もちろん」「わかった」

マイテの誕生日の夜に行われたプリンスのショーの観客席で、マイテは久しぶりに感動して泣いた。プリンスはステージから客席に降りてきて、マイテの手をとって立ち上がらせ、抱きしめた。何千もの目が見つめる中で、彼女は全身で彼の腕の感触を感じた。その瞬間、彼は彼女がかつて愛したあの男だった。スペインで初めて見たときの、十六歳の自分が純粋に愛したプリンスだった。

その夜、マイテが期待した電話は来なかった。しかし、もうマイテはいつまでも来ない電話を待っているだけの女ではなかった。彼女はひとりでカジノに出かけた。

つづく