INSTANT KARMA

We All Shine On

奥のそこ

ワープアと呼ばれる存在が「層」として顕在化してきたということは、資本が労働力の生産と再生産の責任を放棄しつつあるということを意味する。人間を労働力として商品化することによって成立したにもかかわらず、そのことの責任を放棄しつつあるのが、ネオリベ以降の資本主義だといえる。一九八九/九一年の社会主義国の崩壊以降、資本主義は永遠であるかのような幻想が広まった。しかし、資本主義が労働力商品化の「無理」(宇野弘蔵)を抱えている。その「無理」が今や顕在化している。
(絓秀実「世界資本主義下のベーシックインカム」09年/『天皇制の隠語』所収)

Nさんが来てからもうすぐ2か月になるが、tのときとは違って、心理的な距離を縮めることには慎重になっている。こういうタイプは早急に距離を詰めに行かない方がよいのではないかという感覚がある(あくまでも心理的距離のこと)。だからあまりこちらの趣味嗜好については曝け出さないし、彼女が好きな小説やドラマの話もしない(単に関心が持てないだけという要因が大きいが)。

この仕事にある程度の満足を得ているのか、まあ仕方ないけどここで働くか、という気持ちなのか、退屈で飽き飽きしているのか、も表情からは伝わってこない(最後のではないと願う)。とにかくtのような人間とは異世界で生きている人だということだけは分かる。まあ本当につまらないのなら自分から辞めると言い出すだろうし(Mさんのように)、あまり無責任な行動は取らないのではないか(Mさんのように)と期待はしている。

帰り際にNから、実家を出て独り暮らしするので勤務を増やしてほしいと言われる。週明けに話すことにする。

――明るいものにしたいという気持ちは、どういうところから生まれたものだったんでしょうか。

坂本:やっぱり、この世の中が過酷すぎるので、ちょっと耐えきれなくなってきたのはあるかもしれないです。そこから逃れられるような、自分なりにちょっとでも気持ちが明るくなるようなものを追求した感じです。とはいっても、応援されたりポジティブなことを言われたりしてもかえって落ち込むタイプだし、スピリチュアルな感じも気持ち悪いと思うので。そうじゃなくて、自分が明るくなれる、一番好きな感じの曲を10曲作って、それを集めてアルバムにした感じです。

坂本慎太郎 アルバム『物語のように (Like A Fable)』リリース時のインタビューより