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Elect-trick

「新潮」最新号に掲載されている千葉雅也の新作小説「エレクトリック」を読む。

私小説が好きなので、純粋なフィクションなら嫌だなと思っていたが、ほぼ著者自身をモデルにした主人公の十代の頃を描く作品だった。

とても面白く読めた。小説として優れているとか作品のクオリティとかいう次元とは別に、自分はこの小説が「好き」だ。小説に惚れる、という言い方があるのかどうか知らないが、前作の「オーバーヒート」や「デッドライン」でもそうだったように、この小説に惚れてしまった。単純に著者の思考や文章と相性がいいのかもしれない。これは著者に惚れるというのとは微妙に違う。

物語の力でグイグイ引っ張っていくタイプの小説とは真逆の、自己観察日記のようなスタイル。視点が少年の頃の自分と今の自分、時には父親の視点に変わったりもするが、気にならない。

たぶん著者は保坂和志経由で小島信夫の影響を受けている。だが模倣ではないオリジナルなものが確かにある。それは(なまかじりのラカン用語を使えば)著者の<特異性>が文体から滲み出ているからだ。この<特異性>は、著者がセクシャルマイノリティーに属することとはまったく関係がない。だが、著者の感性そのものには、その属性のもたらすものが反映しているのかもしれないと思う。

同時に、この文体には普遍性もある。この書き方なら、いつ始まってもいいし、いつ終わってもいい。日常の一部がそのまま小説になる。淡々とした文章ではあるが、痺れる言い回しにほとんどページごとに何度も遭遇する。

一通り読んだところだが、改めて一行一行舐めるように精読したい。