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Louise

松下竜一「ルイズ 父に貰いし名は 」(講談社文芸文庫)という本を読んだ。

著者についても本の内容についてもまったく事前知識なしに、図書館で目についたのを借りて読んだ。

正確に言えば、出鱈目に選んだわけではなかった。以前、沢木耕太郎のエッセイの中で松下竜一という作家のハードボイルド小説について触れたくだりがあり、印象に残っていたことが頭の隅にあった。「ルイズ」というタイトルもどこか記憶の中にあった。

それで読んでみて、まったくの記憶違いだったことが判った。

大杉栄伊藤野枝の末娘のルイズ(のちに改名)の生涯を綴ったドキュメント小説だった。これはこれで興味深く読めたのだが。

少し前のブログに、私小説に描かれた家族のその後が知りたくなる、と書いたことがあったが、この作品はまさにそのようなニーズに応えるものだ。

国家権力に惨殺されたアナキスト夫妻の娘ということで、世間の様々な誹りを受けつつ、戦中戦後の苦難の人生を歩んだ軌跡が主人公(ルイズ)の目線で綴られている。

大杉栄の娘と言えば「魔子」が有名だが、その長姉の人生についても語られる。

ルイズは留意子と改名され、16歳で軍人に嫁ぎ満州へ渡り一男二女を育て、戦後はギャンブル依存症の夫の尻拭いに忙殺され、45歳で遂に離婚して新たな人生を模索するところで終わる。その後は市民運動に生き甲斐を見出し、その過程で松下竜一と知り合い、1年半に及ぶインタビューを経てこの作品が生まれた。

より正確に言えば、1980年1月、ルイズ52歳(彼女は1922年生まれ)、松下竜一43歳のときに「ビデオで見る豊前火力闘争八年史」の上映会で出会い、講談社からこの本の単行本が出たのが1982年3月で、同年6月に講談社ノンフィクション賞を受賞した。

その後も市民運動の集会で度々一緒になり、松下は1996年6月にルイが末期の胆道癌で亡くなる一月前に病床を見舞っている。

 

ちなみに、沢木耕太郎が取り上げていたのは金子正次「竜二」だった。

ドエライ勘違いでござった。