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チャンドラー(夢遊病かつ熱中症)

ストリート・スライダーズのサードアルバム「Jag Out」の最後に収録されている「チャンドラー」という曲は、スライダーズのライブの定番曲である。

先日の結成40周年の武道館ライブの一曲目にも演奏された。

この曲の歌詞もけっこう謎が多い。

そもそも「チャンドラー」というタイトルからして「??」である。

歌詞の中には「チャンドラー」という言葉は一言も出てこない。

ハリーがこの曲について解説したインタビューがあるのかどうか知らないが、以下は私個人の勝手な妄想解釈であるから、創作者であるハリーの考えとはまったく異なるに違いないとあらかじめ断っておく。

 

「チャンドラー」とは"ある人物"の「あだ名」であり、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「I’m Wainting For My Man」(ファーストアルバムの一曲目)の「My Man」と同じ業種に属する人物であり、歌い手の「マイメン」である。

つまり今でいう漢akaGAMIやら舐達磨のようなヒップホップの連中がやっているのと似た世界の曲である。

 

オイラになにか 言いたそうな Baby
オネガイがある オネガイがある
この頃ひどく 荒れてるけど Baby
間違えるなよ 間違えるなよ
おまえのために オレのために

 

「オネガイがある オネガイがある」の主語は「オイラ」であるが「チャンドラー」でもあるという特殊な構造になっている。歌詞(詩)だからこそ可能なアクロバチックな文体である。類似のスタイルは昭和初期の前衛詩人の中にも見出される(典拠不明)。

「オネガイ」という言葉がダブルミーニングであるためにこういうことが起こる。

「間違えるなよ」というのは、「チャンドラー」が「間違え」てしまうと、彼にとっても自分にとっても厄介なことになるからである。

 

くしゃみひとつ 飛ばされて
アタマは ここにある
まるでオレたち かなしばり
いったいどこへ 逃げるんだ?

 

「くしゃみ」は隠語。トリップしても結局現実からは逃れられないと歌っている。

 

悪い噂が 飛んでいたし
白い夢さ
街もなぜか 疲れていて
忘れようぜ

 

ここの歌詞は難解。

わずか四行(二十八文字)の中に膨大な情報と物語が詰め込まれている。

「悪い噂」「白い夢」「疲れた街」と様々なイメージを喚起する文句が並ぶ。

最後の「忘れようぜ」に力点がある。

 

いつものあたりで 寝転んでる Baby
それでもいいぜ それでもいいぜ
交差点まで 近づいたら Baby, Baby
電話をくれよ 電話をくれよ
いかしたヤツを 見つけたばかりさ

 

ここの部分から、「チャンドラー」はジャンキーであると解る。

同時に「オイラ」は「チャンドラー」に「売る側」であると解る。

つまり第1パラグラフの歌詞の意味が逆転する。いや最初からそうだったのだが、勝手に逆だと解釈していたのが裏切られる。こっちが想像していたよりもずっとヤバい歌詞だったのである。

 

あくびひとつ 飲み込まれ
横目で 背伸びした
おまえもすぐに イカれるぜ
そいつはとびきり Rockn' Roll

 

ハリーは「あくび」という言葉を多用する。

「退屈」はスライダーズのキーワードの一つだ。

もっと正確に言えば、「退屈って奴にケリを入れる」のがスライダーズの活動全体のテーマである。

「ケリを入れる」って、どうやって?

―――とびきりの Rockn' Rollでに決まってるじゃないか!

 

ダルなように見せて緊張感に満ちた演奏。

まさにロックンロールでしか表現できないことをやってる。

八十年代の日本に咲いた徒花。

 

でもなんで「チャンドラー」なのかって?

たぶん「そいつ」がレイモンド・チャンドラーの小説を読んでるのを見たどっかの奴が揶揄ってそう呼び始めたのが広がったんだろう。

あるいは「そいつ」はウルトラ怪獣のことが好きで、そんな話ばかりしてたのかもしれない。

 

以上、不眠と熱中症による妄言でした。