ザ・ビートルズの『赤盤』、『青盤』として知られる有名なベスト盤が、本日付けでリリースされた。サブスクで聴くことができる。
ビートルズが解散したのはぼくの生まれた年で、53年経っても、リミックスを施した新たな音源がリリースされ続け、全く古びることがなく、新たなリスナーに新鮮な感動を与え続けている。
53年経っても新鮮に聴けるのだから、たぶん60年、70年、100年経ってもエバーグリーンのままなのではないだろうか。
当然ぼくはリアルタイムで聴いておらず、すべて後追いで聴いた。
初めて聴いたビートルズ・ナンバーは、忘れもしない、中学一年生のとき、ラジオで「基礎英語」を聞くためにつけていたその前の番組(リクエストで音楽をかける番組)でかかった「レット・イット・ビー」だった。ビートルズという名前だけは知っていたが、どんな音楽なのかは知らなかった。なんとなくエアチェックして、いい曲だなと感動して繰り返し聞いた。
それから、父親が演歌をFM番組で録音して聴くためのオーディオ・セットで、ビートルズの曲がかかる番組をエアチェックしてもらって、カセットテープで聴いた。
NHK FMの夕方の番組で、ゼルダの小嶋さちほや松原みきがMC(当時の言葉ではDJ)をしている番組で、ビートルズのアルバムを順番に流す(全曲ではない)というのをやっていて、全部エアチェックした。
その前に、親が持っていたカラオケ用のソングブックの最後の方に洋楽のコーナーがあって、ローリング・ストーンズの「ミス・ユー」やアバの「ダンシング・クイーン」などと一緒に、ビートルズの「イエスタデイ」と「ロング・アンド・ワインディング・ロード」の歌詞と楽譜が乗っていた。
その横に、四人がツアーで空港に降り立ったところの写真が載っていて、黒いスーツ姿がかっこいいなと思った。
シンコー・ミュージックから出ていたビートルズの楽譜集も買った。赤い本で、楽譜の上にギターのコードと押さえ方も書いてあって、載っている写真もよかった。
少し前に、ストリート・スライダーズのハリーや蘭丸もこの本でギターの練習をしたとどこかに書いてあるのを見て嬉しかった。
FM以外にも、ラジオでビートルズの曲が流れる番組をチェックして、自分のラジカセで録音した。レコードを買うお金はなく(そもそも家にはレコード・プレイヤーがなかった)、当時はCDもなかった。だからビートルズの曲はもっぱらラジオをエアチェックしたカセット・テープで聴いた。
そのころ、NHKでビートルズの特集番組(「コンプリート・ビートルズ」とかいうイギリス制作のドキュメンタリー)が放送され、それを録画して何度も何度も見た。番組の中で流れるビートルズの曲(カセットに入ってないやつ)を耳をそばだてて聴いた。
今考えれば驚くべきことだが、そうやって聴いたビートルズの曲は、すべて素晴らしく、感動しないものがなかった。初めて聴いてピンと来ない曲もあったが、それも繰り返し聴いているうちによくなった。まさに天の啓示のような感覚で聴いていた。
どの曲も、初めて聴いたときの感覚をリアルに覚えている。
せっかくなので、『赤盤』と『青盤』の曲のそれぞれについて、感想を書こうと思う。
ビートルズについて書くと退行してしまってアホな子どもみたいになるのでご容赦。
<CD1>
01. ラヴ・ミー・ドゥ
初めて聴いた記憶は、テレビのコマーシャルだったと思う。何のCMかは忘れたが、ビートルズの曲と映像が効果的に使われていた。聴いた瞬間にこの曲の虜になった。
ジョージ・マーチンは「ジョンのハーモニカがいい」と言ってこの曲をデビュー曲に採用したそうだが、まったく同感である。
02. プリーズ・プリーズ・ミー
これもテレビのコマーシャルで初めて聴いた気がする。「カモンカモン カモンカモン」の掛け合いの部分にグッと心をわしづかみにされた。なんてキャッチ―なんだ(当時は「キャッチ―」なんて言葉はなかったが)。この曲にはなぜかフーセンガムのイメージがある。
この曲もジョンのハーモニカが非常に効果的だ。
03. アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア
これはファースト・アルバムの一曲目だが、初めて聴いたのは例のドキュメンタリー「コンプリート・ビートルズ」で流れていたとき。初期のツアーでのビートルマニアの熱狂の映像と共に流れていて、興奮のるつぼ、という言葉がぴったりだった。当然ぼくも聴きながら興奮した。ポールの「 アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」前の「ウー」というボーカルに痺れた。
04. ツイスト・アンド・シャウト
これも「コンプリート・ビートルズ」で、女王を前にしたロイヤル・コンサートの有名な映像で見たインパクトが強い。「普通の席のかたは拍手して、それ以外のかたは宝石をジャラジャラ鳴らして下さい」というジョンのMCで始まるやつ。
この曲のジョンのボーカル(ウェシェケラベベアン)をキャリアの中でもベストに挙げる人も多いだろう。
最後の三人の上がっていくシンプル極まりないハーモニーが頭から離れなくなる。
05. フロム・ミー・トゥ・ユー
これも「コンプリート・ビートルズ」のライブ映像。出だしのがなり立てるようなコーラスと「If there's anything that you want If there's anything I can do」という最初のヴァースで完全にもっていかれる。声の力。
06. シー・ラヴズ・ユー
これは最初にどこで聴いたのかの記憶がはっきりしないのだが、意外なことに、この曲はあまりいいと感じなかった。今でもそんなに好きではない。なんでだろう。自分でも謎なのだが、サビの「She loves you ヤーヤーヤー」がグッとくるか来ないかの違いじゃないかと思った。
07. 抱きしめたい
この曲は、民放の歌謡番組で、「洋楽ベスト100」みたいなのをやっていて、見事ナンバーワンに輝いたのを覚えている。最後に出場歌手みんなで歌うのだが、当時「ヤングマン」で人気絶頂だった西城秀樹が歌っていたのを特にはっきり覚えている。そのときはオリジナルを聞いていなかったので、「へえ、ビートルズってこういう曲なんだ」と思っていた(そんなにいいと思わなかった)。後にオリジナルを(たぶんラジオのエアチェックで)聴いてぶっとんだ。
08. ジス・ボーイ
これは、映画「ハード・デイズ・ナイト」でリンゴの場面で使われていたのが印象に残っている。とにかく三人の声の魅力に尽きる。好きな曲のかなり上位に入る。
09. オール・マイ・ラヴィング
これはテレビ(テレ東?)のビートルズ特集番組で流れて、冒頭の「Close your eyes」だけでやられた。もう何でもするからあなたの好きなようにして、という感じ。
10. ロール・オーバー・ベートーヴェン
これは割と後でラジオのエアチェックで聴いたと思う。正直初めてのときはピンとこなかった。ジョージのボーカルが弱く感じた。もちろん今ではお気に入り。
11. ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー
この曲のよさが分かるようになったのはけっこう経ってから。ビートルズのR&Bカバーはオリジナル曲のような分かりやすいところが少なく、初心者向きではないだろう。良さが分かるようになると、ジョンのボーカルの魅力にぞっこんになる。そうなると中級者か。
12. キャント・バイ・ミー・ラヴ
これもポールの冒頭一発で決まり。気がついたら引き摺り回されて終了。
13. ユー・キャント・ドゥ・ザット
最初は地味だなと感じた曲の一つ。「ハード・デイズ・ナイト」を見て良さが分かったのでそうとう後になってから。今ではジョンのボーカルベスト10に入る。
14. ア・ハード・デイズ・ナイト
最初に聴いたのがいつかは記憶にないが、ぼくにとって初期ビートルズといえばこの曲。「ヘルプ!」よりこっちの方がずっと好きだった。
15. アンド・アイ・ラヴ・ハー
最初の頃はポールのバラード曲が好きだったので、この曲も好きだった。「ビートルズ・バラード・ベスト20」みたいなカセット(よく懐メロを編集して勝手に売ってる、本屋とかでワゴンセールしているやつ)に入っていた。
16. エイト・デイズ・ア・ウィーク
この曲は正直ピンと来なかったものの一つ。「抱きしめたい」や「ハード・デイズ・ナイト」のような超ド級ナンバーに比べて二番煎じみたいな印象を受けたのか。
もちろん今は(以下略)
17. アイ・フィール・ファイン
ビートルズがいわゆる「アートロック」の方向性に行く先駆けのような曲で、イントロからのリフが印象的。正直初めて聴いたときはそれほど夢中になれなかった。リフで聴かせる曲はストーンズの「サティスファクション」や「黒く塗れ」などの方が好きだった。それはストーンズを聞くようになってからだから、半年くらい後の話。
18. 涙の乗車券(ティケット・トゥ・ライド)
これは「ヘルプ!」の映像と共に聴いたのが初めてだと思う。初心者の頃はメロディアスな方が好みだったので、あまり好きではなかった。
19. イエスタデイ
言わずと知れた、という感じで、当時すでに学校の音楽の時間で聴かされるようなレベルの曲だった。中学生の時は毎朝車で出勤する父親に最寄り駅まで送ってもらっていたのだが、ある朝、車で流していたラジオから流れてきたときのことを覚えている。
演歌とクラシックしか聴かず、ビートルズを毛嫌いしていた父だったが、この曲がかかったときは大人しく聴いていた(どう思ったのかは知らない)。
以下次号