『チャーリー・ワッツ公認評伝 人生と時代とストーンズ』(ポール・セクストン著、 久保田祐子訳、シンコーミュージック・エンタテイメント、2023年)を読む。
なかなか面白かった。
ブライアン・ジョーンズが死んだときには、「ずっと体調が悪かったからいつ死んでもおかしくなかったね。ビル・ワイマンが死んだと聞いたら『おっと』と思っただろうけれど、ブライアンが死んでも特に意外性はなかった」とクールに言い放つなど、チャーリー語録がふるっている。
こういうのは自伝ではなく評伝(いちおう本人公認らしい)だから書けることだろう。
ほかにも、「昔はコンサートは30分でよかったのに、2時間以上もやるようになったのはレッド・ツェッペリンのせいだ」と愚痴ったり、ストーンズの前座に起用したことのあるプリンスについて、「80年代はステージにも華があったけど、90年代に入るとミックのようにはいかなかったね」と辛らつなコメントをしたり、チャーリーだから許されると言ったたぐいの暴言(?)が多い。
そんなチャーリーも、ドラマー仲間のキース・ムーン(ザ・フー)が死んだときには葬式で号泣するなどの一面も見せた。リンゴ・スターとキース・ムーンとチャーリーが3人でセッションした時の記録を残さなかったのをリンゴが悔やんだりしている。
ミックがチャーリーのことを「僕のドラマー」とパーティーで紹介した時に、「お前が俺のシンガーなんだよ!」とキレてぶっ飛ばしたという有名なエピソードについても当事者の証言が語られている。1回じゃなくて2回ぶっ飛ばしたらしい。
ストーンズの曲を何度聞いても飽きないのは、ミックのボーカルやキースのリズム・ギターのせいもあるが、何よりチャーリーのドラムが原因じゃないかと思う時がある。たとえば「スティッキー・フィンガーズ」などのアルバムをドラムに注意しながら聴くと、あっという間に聴き終えて、もう一度聞くことになる。
この本に登場する多くの人が、チャーリーの代表的なレコーディング・パフォーマンスとして「ホンキー・トンク・ウィメン」を挙げていた。確かにバンド全体が乗りに乗っているという感じで、シンプルな曲なのにまったく飽きが来ない。
チャーリー自身は自分を含めバンドの頂点は『エグザイル・イン・ザ・メインストリート』と思っていたようだが、基本的にストーンズの音楽は普段はまったく聴かなかった。
チャーリーの死因は公式には発表されておらず、この本でも遺族の意思により詳細は描かれていない。以前に患った喉頭がんによるものではなく、心臓の手術をした際に思わぬ副作用が出て症状が急変したと言うことらしい。
もちろんチャーリーは彼抜きでステージを続けることを望んでいた。亡くなる2日前までツアーに参加できないことを謝っていたという。
サブスクで聴けるチャーリーのソロ作品(正統派ジャズ)も改めて聞くと中々いい。