INSTANT KARMA

We All Shine On

夜の眼は千で御座います

ハチ:クマさん、何をそんなにニヤついてるんだい?

 

クマ:いやいや、お気に入りの女優さんの嬉しいニュースが毎日次々に飛び込んでくるもんでさ。

 

ハチ:女優さんってえと、あれかい、最近話題の「逃げちゃえば何とかなる」的なドラマに主演してる…

 

クマ:違うよ、大体「逃げちゃえば何とかなる」じゃなくて、「逃げるのは役に立つ」でしょうが。そんで今夜が最終回だからね!

 

ハチ:アスカは逃げずに捕まってまた釈放されたがな。あの子は女子プロだっけか?

 

クマ:話がドンドン逸れてるから! ハッツアンのいうドラマの主役の女優さんと同じ事務所にいた<あの人>のことだよ!

 

ハチ:まだ同じ事務所じゃなかったっけ?

 

クマ:それは前の事務所が勝手に言ってるだけだよ! もう契約は切れて、晴れて独立の身と相成りまして候。だから天下のNHKがオファーを出して、きちんと仕事ができるようになったんだよ。

 

ハチ:NHKといえば、その子の代表作はNHKの「尼ちゃん」だろ?

 

クマ:「尼」じゃなくて「海女」ね。それに彼女の代表作はもう「あまちゃん」よりも映画「この世界の片隅に」と言っていいんじゃないかな? ヨコハマ映画祭であの松田優作以来だという「審査員特別賞」をもらったり、毎日映画コンクールでも声優にもかかわらず主演女優賞にノミネートされたり、前例のないくらいの高評価だからね。

 

ハチ:しかし女優なのに声優で評価されてるってのも妙な話だね。

 

クマ:逆に言えば、声優の仕事だけでそれだけのインパクトがあるんだから、本当にいい映画に出たらどれほどのもんかってことだよ。彼女の本来の魅力は豊かな表情と独特の佇まいにあるからね。

 

ハチ:まあ俺もあの映画は観たけど、声に変なクスリでも入ってるんじゃないかと思ったくらい病み付きになる魅力的な声だとは思ったよ。

 

クマ:声にクスリは入れらんないだろ! 声の魅力に加えて演技の良さが光ったからこそアニメ声優にもかかわらず女優賞にノミネートされてるんだよ。これは大変なことだと思うよ。それに天下のNHKはこの映画を公開前から取り上げて、公開後も何度もニュースで報じたり、えらくご贔屓にしてくれてるんだよね。

 

ハチ:受信料も払ってねえくせに、「天下のNHK様」なんてよく言えた義理だねえ。

 

クマ:ちゃんと払ってるよ! でも民放テレビと同じようにNHKでも彼女を無視しやがったら、受信料支払をボイコットしてやろうとは思ってたけどね。

 

ハチ:民放テレビはこの子を無視してるのかい?

 

クマ:無視どころか、この映画を長々と紹介しながら敢えて彼女の名前だけは出さないという倒錯した態度を取ってやがるのさ。

 

ハチ:何でそこまで嫌がらせみたいなことをするんだろうねえ。

 

クマ:まあまあ、その話を遣り出すと長くなっていけねえから、改めてゆっくり。今俺が言いたいのは、天下のNHKが何で彼女をここにきて猛プッシュし始めたかってことだよ。

 

ハチ:猛プッシュ?

 

クマ:そう。だから俺がさっきからしみじみニヤニヤしとるんじゃ。

 

ハチ:連ドラのレギュラーが決まったとか?

 

クマ:そいつはマダだ。でも明日の「あさイチ」にはゲスト出演が決まってるし、今週の金曜日のNHKBSプレミアムでは午後10時からの名盤ドキュメント「矢野顕子“JAPANESE GIRL”」でのインタビュー出演が発表された。これは天才少女(当時)矢野顕子のデビュー作についてのドキュメントシリーズ番組の一つで、以前には、はっぴいえんどの「風街ろまん」やRCサクセションの「シングルマン」など日本ロックの名盤を取り上げていて、俺も全部録画してる、とてもいい番組だよ。

 

Japanese Girl

 

風街ろまん

 

シングル・マン

 

最近彼女のインスタグラムに矢野顕子とのツーショットが載ったりしていて、おやっと思っていたんだが、この番組の取材だったんだな。

 

ハチ:インスタといえば、最近はくるり岸田繁とか、岡村靖幸とか、METAFIVEとか、ミュージシャンによく会ってるなという印象があるな。

 

クマ:八ッツアン、やけに詳しいじゃねえか! 矢野顕子といい、上の人たちといい、ミュージシャンの人選にも鋭いセンスとポリシーが感じられるんだよね。ただ闇雲に会いに行ってる感じじゃないというか。

 

ハチ:誰かの指示でもあるのかねえ?

 

クマ:元々バンドやっててギターも趣味だというし、音楽活動という線もありえるね。それはそれで面白いと思うね。

 

ハチ:しかし、女優に声優、創作アーチストに音楽と、多芸多才な人だねえ。

 

クマ:ベースはあくまでも女優であり演技者だと思うけど、表現者として天性の資質があるんだろうね。

 

ハチ:色んな分野のアーチストを引き付けるゲージュツ的な雰囲気があるのかもな。

 

クマ:とにかく色んな意味で前例のないすごい逸材だよね。一体どこまで可能性があるのかとても見えないくらい。

 

ハチ:NHKはそんな彼女を独占したいんじゃないのかい?

 

クマ:むしろそれはいいことなんじゃないかと思ってるよ。民放テレビは視聴率至上主義で、面白ければ何でもいい、視聴率が取れれば何でもいい、という考えだから、番組の質やクオリティなんか二の次、三の次になってしまう。たまには「逃げ恥」みたいに面白いドラマもあるけど、それでも面白さ優先で、「あまちゃん」のような多面的な、じっくり作り込んだ深みのある作品はそうはできない。その点、天下のNHKは、国民の皆様から徴収した潤沢な資金があるから、ドラマの制作にも時間も金もかけることができる。もっとも俳優や女優にとっては民放の方がギャラがいいからNHKへの出演はあくまでもステータスとイメージアップのためと割り切っているところはあるのかもしれない。

 

ハチ:彼女も自分で独立してやっていく上では先立つものも必要だろうし、NHKだけってのも良し悪しなんじゃないの?

 

クマ:だから次に大事なのは映画の仕事だね。「この世界の片隅に」はクオリティとしては大傑作映画であることに違いないし、彼女がこの作品で「再デビュー」できたのは本当に幸運なことだったと思うけれど、今後はインディーズ映画に出続けるより、ある程度のスケール感のある作品に出るべきだと思う。それはこれからの日本映画のためでもあると思うよね。

 

ハチ:でも小規模で良質な作品に出てゲリラ的に戦い続けるのもあの子らしいともいえるんじゃないの? クラウドファンディングとか、新しい形を切り開いていく姿も似合うよ。

 

クマ:最高なのは、「このセカ」が国際的な映画賞で認められたり、彼女が英語で吹き替えをやってハリウッドで認められたりして、世界的女優になっちゃうことだよね。そうすれば一気にセレブの仲間入りして、前の事務所が経営に行き詰ったところを、「貴方には昔お世話になったんだから、受け取りなさい」とか言ってポーンと大金を渡して去って行くとかさ。そうなったらもう永遠の伝説だよね。

 

ハチ:おいクマ、大丈夫かよ? 妄想こきすぎてイカレちゃったんじゃないの? ロレツも回らなくなって・・・おめえ、さっきから一体何杯目だ?

 

クマ:スイマセン、すっかり「のん」で頭がおかしくなっちまったようで・・・

 

おしまい