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「ママはノースカロライナにいる」

東峰夫という作家の単行本『ママはノースカロライナにいる』講談社、2003年)を読む。

西村賢太坪内祐三の「ダメ人間作家コンテスト!」という対談で名前が挙がっていて、西村が彼の「ガードマン哀歌」という小説が素晴らしいと語っていたので興味を持って読んでみた。

この単行本にはその「ガードマン哀歌」と表題作の「ママはノースカロライナにいる」の二篇が収録されている。ともに私小説である。

東峰夫は、1938年生まれの沖縄出身で、1971年に「オキナワの少年」が文學界新人賞となり、翌年芥川賞を受賞。77年に白人ハーフの女性と結婚し、東京から沖縄に戻って二子をもうけるも、1984年単身で再び上京する。

「ガードマン哀歌」は上京後、小説を書きながら日雇いの警備員をしていた頃の生活を描いた作品で、「ママはノースカロライナにいる」はハーフ女性と出会い結婚し、沖縄で過ごしたのちに妻子を残して再び上京するまでを描いている。

どちらの作品にも夢やスピリチュアルな描写が多くみられるが、これは沖縄出身という作家の特性によるものかと思った。私小説としては、飄々とした文体に一時の小島信夫を思わせるような雰囲気があり、自虐的なユーモアで生活苦を綴る観点には西村賢太にも通じるものを感じた。しかし西村のような小説技法はなく、思ったことをストレートに吐き出していくスタイル。

奥さんの描き方には魅力があるし、幼い子供たちとのやり取りにはグッとくるものがある。

絶賛したりのめり込めるような小説ではないが、骨身を削っているのが分かるから無下には扱えない、大切にすべき作品だとは思った。

「貧の達人」という著書もあるようだが、そちらも読んでみたい。