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『八木義徳・野口冨士男往復書簡集』

八木義徳野口冨士男往復書簡集』という本を読んだ。

図書館で借りたものだが、本当はこういう本は短期間で読み飛ばすのではなく、いつも手元に置いてじっくり読みたいものだ、などとだんだんいっぱしの文学愛好者じみたことを偉そうに書いてしまう自分に気づく。ニワカもいいところなのに。

2021年5月に刊行されたもので、もし坪内祐三が存命なら必ず取り上げていただろう。解説は平山周吉。

野口の小説は最近いくつか読んだが、八木のは読んでいない。ただ八木の名前は、佐伯一麦が書いたものや対談の中で出てきていたので知ってはいた。

この書簡集では、文字通り叱咤激励しあいながら、半世紀に及ぶ作家生活を二人が支えあうようにして過ごしてきた様子が伝わる。こういう形での作家同士の関係というのは珍しいのではないだろうか。

互いの作品についても、「〈気〉が入ってない」とか物足りないとか忌憚のない意見を述べ合っている。そのアドバイスを受けて書き直したりもしている。お互いに(主に野口の側が)神経質になって関係が悪化しそうになったり、誤解が解けてより関係が深まる様子も手紙のやり取りから伝わってくる。それ自体がもはや小説のようである。

晩年の野口がしきりに愚痴めいて「(できるだけ苦しまずに)早く死にたい」的なことを八木に訴えている様子は、心を許し切った友人に甘えているようにも思えるが、それと同時に、その文章に上ずったところがまるでないのが私小説家としての矜持を感じさせずにおれない。

最後の手紙(1993年10月13日)では、野口が不自由な右手で仰向きの姿勢で書いた手紙の、その文字がきちんとしていることに八木が驚いたと書き送っている。

野口がこの世に残した最後の言葉は「昼には天ぷらそばが食べたい」だったと聞いて、せめてそれを食べさせてからあの世へ旅立ってほしかった、と八木は没後のエッセイに書いた。