INSTANT KARMA

We All Shine On

Feel Love

ハリーとロックンロールの話をしていた時に、彼はロックンロールならなんだっていいわけじゃない、同じ「ロックンロールだぜ」とか言っても全然好きじゃないのもあると言った。

「クラシック聞いてるほうがよっぽどいいよ」

彼は真顔で言った。

ロックンロールとか気張ってるのに限って、とんでもない勘違いでさ、ひでえんだよ。

じゃあ、ハリーの好きなロックンロールってどういうの? と聞くと、彼はちょっとだけ考えて即答した。

「強引なやつ。もう強引に持ってっちゃうみたいな、そういうの」

 

「夢の跡 ザ・ストリート・スライダーズ」宇都宮美穂・沼崎敦子

「いっくらサウンド云々とか言ってても、こういうの聞くとふっ飛んじゃうんだよね」

さっきまで最新ヒット集を聞きながら、プロデューサーがどうの、12インチがどうの、と熱心に解説を加えていた蘭丸が、神妙な顔で言う。これを機に、部屋の話題は一気にビートルズに独占されてしまう。・・・

そういえば一番最初にスライダーズのツアーを追って大阪へ行った84年夏、彼らがライブ前の楽屋で一心に耳を傾けていたのもビートルズだった。

その年の暮れ、二度目のツアー同行取材で飛んだ北海道の旭川。ライブが終わって魚料理屋での打ち上げで、私たちが夢中で語り合ったのもビートルズのことだった。その時、ひどい風邪にかかってけだるそうにしていたハリーが、急に背をまっすぐ起こして真剣に話し出した時の表情は今もって記憶に残っている。

「『イン・マイ・ライフ』って曲あるじゃない? あれ、中学の時に詞を読んでさ。それまで、ロックっていう世界が自分にとって凄く遠くて異質なものだったのが、急に現実的なものっていうか、ここにあるものって感じがしたの覚えてるな。…夢じゃないっていうかさ。とにかくやっちまおうぜ!とかいうような感じの詞じゃ全然ないんだよな。思いっきりちゃんとしててさ、スゲエなって思ったぜ。違うカッコ良さみたいなのを感じた」

 

灰皿の上のお香はすっかり白く燃え尽き、部屋の空気も少しずつ浄化されつつあった。その空間には私たちと、そして新しい息を吹き込まれたビートルズがいた。

「ジョンの歌って、常に愛を感じる」

ソファの中で身体をゆっくりと伸ばしながら、ひとりごとのようにハリーがつぶやく。

「愛を浴びるような気がする」

 

前掲書より

昨日ジェームスと仮屋氏の対談で、ハリーのいい「お説教」の話を聞いて感動したばかりなのだが、85年夏のスライダーズ全国ツアー同行記「夢の跡 ザ・ストリート・スライダーズ」を読むと、ハリーが何度も体調不良でステージを途中で打ち切っているのに笑う(愛を込めた笑い)。

そんなハリーを見て、「今度ぶっ倒れたら絶交だからな」と言い放つ蘭丸にまた笑う(もちろん愛を込めた笑い)。

この本は、スライダーズのドキュメントであり、ファンのための礼賛本ではない。書けないことがたくさんあったことが行間から伝わってくる。

長く辛い旅の中で、スライダーズは苦しんでいた。不調の時は情けないライブをし、ひどい時は最後までやり抜くことさえできなかった。その代わり、良い時は神がかったように素晴らしく、集まったすべての人々に喜びと祝福を与えた。まるで命あるもののように起伏する彼らのライブは、ロックンロールの本質をつき、ロックンロールのすべてを体現していた。

スライダーズには今夜みたいな雨の日が似合う。