スージー鈴木著「EPICソニーとその時代」(集英社新書、2021年)を読む。ストリート・スライダーズ関連の記述を求めて読んだのだが、一行も言及なし。エレカシについて一言二言触れられているのみだった。どっちもヒット曲とは無縁だったから仕方がない。
しかし本自体はひどく面白かった。EPICソニーの<核>は佐野元春であり、佐野~大沢誉志幸~岡村靖幸がその背骨であるとの見立てには膝を打った。
あまりに面白かったので、同じ著者の「1979年の歌謡曲」(彩流社、2015年)と「1984年の歌謡曲」(イースト新書、2017年)も借りて一気に読んだ。音源をサブスクで同時にチェックしながら。
前者についてはゴダイゴ(特にミッキー吉野)の仕事の素晴らしさについて今更瞠目させられたし(「Our Decade」は素晴らしいアルバムで感動した)、後者はとりわけリアルタイムで記憶に刻印されているヒット曲を想起させるので、しばしば意味も分からず涙ぐみながら読み進めた。
著者の確かな知識と音楽に対する愛情、そして的確な見立ては、ナンシー関を連想させる。笑いあり涙あり感動あり感心しきりの、とても面白い読書(と同時に音楽)体験であった。
著者が1984年のベスト・ソングに挙げる「Wの悲劇」(薬師丸ひろ子、松本隆、呉田軽穂、松任谷正隆)は数多くのカバーがあるがやっぱりオリジナルが一番いい、と色々聞き比べて思ったのは、オリジナルのひろ子の透明なうたごえが脳にインプットされているからだろう。この曲の転調の仕方が大瀧詠一の作った「探偵物語」と同じで、意識的なものだろうというのは初めて知った。サビで一音上げるというのは有名な「ひこうき雲」と同じでユーミンの天才性を示している。
それから中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」の「ダイヤじゃないのよ涙は」という歌詞が松田聖子の「瞳はダイアモンド」の「涙はダイアモンド」という歌詞へのアンサーだというのも初めて知った。
上掲署の中でたびたび言及され、興味を持ったので、「作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997」(梶田昌史・田渕浩久、DU BOOKS、2017年)も借りてみた。