War Is Over

 if you want it

2021.12.30

年末は、黒澤明『わが青春に悔なし』(原節子主演)をブルーレイで見て、徳田秋声と嘉村磯多と尾崎一雄を読んだりして過ごしている。あと最近いくら眠っても寝たりない気がするので昼間から泥のように寝た。

『わが青春に悔なし』原節子は、よかった。というより凄くて圧倒された。公開当時はキャラクターにリアリティがないといって批判されたそうだ。こんな強い女性は日本には実在しないよ、ということだろうか。しかし原節子は実際強い女性だったようで、役柄に見事にはまっていると思った。彼女自身この役を気に入っていたようだ。

嘉村磯多西村賢太への影響を感じた。尾崎一雄は世評通り「暢気眼鏡」などの「芳兵衛もの」が<調和型私小説>といった趣でよい。川崎長太郎の描いた尾崎一雄論も興味深く読んだ。徳田秋声「彼女と少年」を読んだが、今の視点から見ると淡すぎて物足りない。

今年は岩波文庫から秋声の「あらくれ・新所帯」がほぼ半世紀ぶりに新版で刊行され、『縮図』が復刊されたという意味で記念すべき年である。今回の二冊同時刊行には、読者からの復刊リクエストが大きな役割を果たしたという。DMM GAMESが2016年よりリリースしているPC・スマートフォン用のゲーム「文豪とアルケミスト」に秋声をモデルにしたキャラクターが登場しており、その人気により秋声の知名度SNSを中心に高まっていたというのだ(大木志門「東京五輪の年に読む徳田秋声『縮図』より)。そうした旧来の文学好きだけではなく、比較的若い読者たちが版元に寄せたリクエストが今回の復刊につながったとすれば、ジャパン・クールの代表であるアニメやゲームなどの「文豪コンテンツ」の筆頭は一面で喜ばしいことといえるのかもしれない。

『縮図』は昨年、現代中国人作家の閻連科(えんれんか)が人生を変えた書籍に挙げていたことで話題になっている。彼は「一時期、何度も何度も繰り返し『縮図』を読んでいたので、初めのほうの長い文章をそらんじることができるほど」であるといい、「私は、『縮図』によって政治、戦争、恐怖の空の下、徳田秋声がいかに人を愛し、市井の生活を理解するのかを知った」と書いている。

日本でもほとんど読まれなくなっている秋声の作品が、中国のノーベル賞候補作家(前衛的な作風で、中国のタブーを書き続ける作家として知られているという)に愛読されているというのは象徴的で二十一世紀(二〇二二年)にふさわしい現象といえるのではないだろうか。

徳田秋声は「非常時」の裏側で庶民がどのように日々の生活を営んでいるかを子細に見つめ、それをすぐれた文章で描いた。『縮図』は戦時下にふさわしくない小説であるとして弾圧を受け、未完に終わったが、人間の生を静かに凝視した秋声の視線の確かさは、今も古びることがない。