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ガンビア滞在記感想

庄野潤三ガンビア滞在記』は、ロックフェラー財団の援助留学生(?)として妻と共にオハイオ州コロンバスの郊外にあるガンビアという村で一年足らずを過ごした作家の滞在記である。
庄野が現地で交流した隣人の大学教授夫妻や学生、料理屋や理髪店の店主や客などとの交友関係がひたすら綴られていて、庄野自身が大学に通って何を勉強していたのかについては一言も書かれていない。まるでひたすら人間観察をするために滞在していたかのようだ。

1959年当時、まだアメリカに長期滞在する人は少なく、貴重な旅行記のはずだが、アメリカで暮らすとはどういうことなのかについて、大上段からの意見や抽象的な議論は完全に排除され、ひたすら著者が個人的に体験したことのみが書かれている。

まさに等身大の記録で、後年ノルウェーオスロに滞在した佐伯一麦が書いた『ノルゲ』という小説を思い出した。庄野潤三佐伯一麦の尊敬する作家の一人であることを知って深く納得した。
初期の佐伯は、妻との結婚生活の破綻を生々しく描く私小説作家だったが、再婚してから『ノルゲ』や『鉄塔家族』などを書くようになった佐伯一麦の目指す理想の小説家は庄野潤三なのかもしれない。


東京に住む男性の三人に一人が独身者であるとのニュース。
イーロン・マスクから「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」と警告された。
正規雇用に従事する労働者が多数となり、会社に就職して、結婚して、子供を産んで、子供が成長して孫ができて、年金と貯蓄で老後を豊かに過ごす、という人生のロールモデルが機能する時代は終わった。そんな恵まれた人生が可能だったのは、戦後の高度成長期を生きた世代だけだったのかもしれない。

そんな時代に書かれた小説と、今書かれる小説は必然的に違ったものになる。しかし、当時の表現のスタイルは今も同じ有効性を持つはずだ。佐伯一麦の小説はそのひとつの実例かもしれない。だが、もっと若い世代でリアルなものを書く作家が出てきてほしい。小島信夫庄野潤三のような視点を持った作家が。現代の若手作家でその視点を感じさせる作家はほぼいないように思う。