INSTANT KARMA

We All Shine On

青くさき新緑の毒素は世に満てり

なんかちょっと話題になってるぽかったので、オリラジ中田の動画を初めて見た。

youtu.be

最近のお笑いはまったく知らないし、オリエンタルラジオの漫才も見たことがない。

だからこの動画のみで判断する。

彼の主張は以下のとおり。

今のお笑い界では松本人志が最大の権力者になっていて、彼の基準で面白いかどうかが決まってしまう。他の笑いの可能性が閉ざされている。

その原因は松本が「M-1」(漫才)と「キング・オブ・コント」(コント)と「IPPON」(大喜利)と「すべらない話」(漫談)すべての審査員的立場にいること。

このフォーマットの中では、松本を超える芸人は出てこれない。今売れている芸人は皆松本から評価されたおかげで出てきた人たちだから。

松本は審査員を辞めて他の人に譲るべき。M-1爆笑問題がやればいい。

ジャニー喜多川が生きている間は誰も何も言えなかった。今のお笑い界にも同じことが起きている。

俺(中田)は松本から評価されたことはないし別の形で今の立場を築いたから好きなことが言える。他の芸人は松本の作った映画について黙りこくっているが、俺なら言える。

こういうことを言うと、「面白くないくせに」とか「お前で笑ったことがない」とか言われるが、俺の笑いを理解するには知性が必要。ドストエフスキーモーツアルトをいいと思わない、なんて恥ずかしいから言わない方がいい。

40分を超える動画だったが、途中で止めずに最後まで一気に見通した。

これはめったにないことなので、話術には素晴らしいものがあると思った。

内容については、その通りなのかもしれないと思うが、似たようなことは以前マキタスポーツか誰かが「一億総ツッコミ時代」か何かで言っていたように思う。

個人的にはお笑いにはジャニーズと同じくらい興味がないので、何がどうなったって別に構わないのだが、松本人志の映画について触れることがタブーになっているとかいう風潮は気持ち悪い。

ちなみに松本人志の映画については菊地成孔ユングサウンドトラック」の文庫版でほぼ完全な批評をしているので興味があれば読むといいと思う。

今の芸人にとって松本人志について批判的に語ることがタブーになっているのだとすれば、中田の発言は勇気あるものだと思うし評価されるべき。

中田が自分の笑いをモーツアルトドストエフスキーに準えるのはさすがに首をかしげたが、一方の松本人志の笑いは、決して普遍的なものではない。

<根付の国>である島国日本でのみ通用する特殊な感性の笑いである。よく言えば同じ島国であるイギリスのモンティー・パイソンのような感性ともいえるが、基礎的な知性や教養が決定的に欠如している。

だから「しんぼる」で海外の評価を求めたときに完全に黙殺された。あまりにも自己満足的で世界観が稚拙で知的レベルが低すぎたためだ(前掲「ユング・・・」参照)。

松本人志の笑いの真骨頂はナンセンスでシュール(非現実的)な発想と土俗的な「ベタな笑い」の融合(組み合わせのセンス)にある。しかしタモリやたけしのような教養の裏付けはない。逆にそれが大衆(特に若い世代)に受けた。

自分自身、松本の笑いに強く影響された世代に属するし、「四時ですよーだ」から「ごっつええ感じ」を経て「ビジュアルバム」に至る彼の作品はほとんどすべてリアルタイムで見た。このときのインパクトがあまりに圧倒的だったために、今のお笑い芸人たちは未だにその影響から脱しきれずにいる。

ざっくり言えば、二十一世紀に入ってからの松本人志は、この時代の遺産の上に巨大な生前モニュメントを築き上げた。そのやり方があまりに巧みだった故に(あらゆる独裁者がそうであるように)、お笑い界の中に絶対的権威を確立した。

その勢いをかって「ワイドナショー」で文化人面してコメンテーターをやりだした時には文字通り唾棄すべき存在になり果てたと思ったが、本人の意向で降板したということなので、今はまあ別にどうでもいい。

中田敦彦は、ユーチューバーとして絶大な人気があるということなので、テレビ界とユーチューブ界の対決構造にすればうまくやれば時代の覇者になれるかもしれないとの計算があってのことと踏んだ。

動画を見た直後は、中田の側に立って徹底的に松本人志批判(つまり現代日本批判)をやろうと思っていたのだが、根本的に興味がないので筆が乗らない。ここまで。