INSTANT KARMA

We All Shine On

Ornette Coleman:1930-2015

パット・メセニーオーネット・コールマンの『ソングX:20thアニバーサリー』というCDがかなりいい。

パット・メセニーは言うまでもなくジャズ・ギタリストの超絶テクニシャンで、オーネットは当然ながら好き勝手に超絶フリーにかつお気楽に吹きまくっているだけなのだが、相性がいいというのか、何とも言えない解放感がある。

マイルス・デイヴィスは聴いていると緊張を強いられるが、オーネット・コールマンは聴いていると頭のネジがゆるゆるになってくる。

思うに、この人には「作為」がない。好き放題やってやろうとか、フリーにやろうとかいう「意欲」をまるで持たずに、ただ内からの流れにひたすら素直に吹いているだけだ。

「天真爛漫」と言ってしまえば身も蓋もないが、貧乏だった彼は、ミュージシャンになるまでも、なってからも、周囲から蔑まれ、冷たい視線を浴び続け、時には暴行さえ受けた。

スタイリッシュなマイルスの「反抗」とも違う、「変人の受難」を味わい続けた人だ。オーネットが凄いのは、そうした迫害をものともせず、世界に向かって自分を開き続けることをまったく躊躇しなかった。

日本の有名なサックス奏者、梅津和時が、初めて自分のレコードを作った時、真っ先にオーネットの住むアパートを訪ねたという話がある。

突然自分のレコードを聴いてほしいと訪ねてきたまったく無名の日本人ミュージシャンに対して、オーネットはニコニコと耳を傾け、家に上げて、ティーパック入りの紅茶を持ってきて、自分の新しいビデオを一緒に見ながら談笑したという。

別の日本人ミュージシャンは、オーネットが来日した時、宿泊するホテルまで押しかけていって、無理矢理レッスンを受けたそうだ。翌年渡米し、オーネットに教えてもらうようになった。まだ英語がそんなに上手ではなかった彼に、長い時には3〜4時間、ひとつひとつ楽譜に書きながら、手取り足取り教えて。

別にオーネットが「いい人」だという話がしたいのではない。

金に厳しい面もあったというし(道端で見かけたホームレスに大金を渡すこともしばしばだったそうだが)、マイルスの「口撃」に対してはシニカルで辛辣なユーモアで応じている。

オーネットが音楽で体現した「自由」は、ジャズという音楽を通してアメリカ黒人たちが追い求め続けてい感覚そのものだった。彼の登場がセンセーションを巻き起こした最大の理由がそれだ。

スタイルに囚われることの不自由さを「カッコよさ」として演出したのがマイルスで、スタイルからの逸脱を徹底的に追求しすぎて燃え尽きたのがエリック・ドルフィーでありコルトレーンであり、誰の真似でもなく、逸脱したいという欲求さえなく、スタイルなどという発想も持たない「そのまんま」をただただ表現し続けたオーネットが結果的に一番長生きしたのはとても自然なことだろう。

冒頭のパット・メセニーとのアルバムに戻ると、テクニックとは無縁のオーネットが超絶テクニシャンのメセニーと完璧にコラボしているこの奇跡のような音楽は、わずか2日間ですべての録音が終わったという。

発売当時はCDの容量制限のため全曲が収録できなかったが、この20周年の記念エディションでは冒頭6曲が新たに追加されている。聴くならぜひこの「20thアニバーサリー」をお勧めする。