INSTANT KARMA

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私小説

田中英光全集第5巻

今日は田中英光全集第5巻を読んだ。 町にて、切符売り場の民主制、N機関区、少女、途上、風はいつも吹いている、地下室から、流されるもの、嘘、小さな願い、共産党離党の弁。 「風はいつも吹いている」と「流されるもの」は以前に読んだことがあったので…

抱擁家族

今年に入ってから、ほぼひと月ごとに文学作品により衝撃を受け続けるという幸福な体験をしている。これは読書冥利に尽きるというものであろう。 これまでいかに小説、とりわけ日本の戦後文学というものを読んでこなかったかという自分の不勉強ぶりを痛感させ…

小島信夫は?

小説とは読んでいて面白いかどうかがすべてで、面白い小説には引き込まれる文体がある。そこには読者に対するある種のサービス精神といったものが必要だ。しかし例外的に、そのようなサービス精神が一切なく、自分勝手に書いたままの文章が面白いという場合…

みな生きもの みな死にもの

図書館で借りた藤枝静男の代表作といわれる『田紳有楽』も読もうとしたが、ちょっとついて行けず挫折。 変形私小説でも『空気頭』くらいのレベルならまだついて行けるのだが、『田紳有楽』はちょっと飛び過ぎている感じがする。 スピリチュアル的な要素がけ…

オリンポスの黄昏

田中光二『オリンポスの黄昏』を読む。 田中光二は田中英光の次男で、彼自身有名なSF作家である。 その田中光二が、生涯でただ一つの私小説と銘打って一九九一年、著者五〇歳のときに書いたのが、この小説である。単行本には、「あとがきにかえて 父・田中…

『田中英光傑作選』(西村賢太編、角川文庫)

ほとんど丸一日かけて『田中英光傑作選』(西村賢太編、角川文庫)を読む。 「オリンポスの果実」 「風はいつも吹いている」 「野狐」 「生命の果実」 「離魂」 「さようなら」 「野狐」、「生命の果実」、「さようなら」は読んだことがあったが、この並びで…

津島佑子『光の領分』

再び、保育園とライブラリーの間を往復する一週間がはじまった。その頃の私が、一番怖れていたものは、自分の寝坊だった。気がつくと、十時をとっくにまわっていたことが、何度となく、あった。上司からも、保育園からも、再三、忠告を受けていた。寝坊した…

光りの領分

津島佑子『光りの領域』を図書館で借りて少しずつ読んでいる。『寵児』と同様に、シングルマザーのダメ女(と呼んでよいかどうかには躊躇いがあるが、「世間的」にはそう見なされるような存在)の主人公の語りが、書き手と主人公との程よい距離感を感じさせ…

寵児

男の私小説ではなく女の書いた私小説を読みたい、と思い、とりあえず本屋に行って目に付いた津島佑子『寵児』という文庫本を買って読んでみた。 著者については、太宰治の娘で、著名な現代作家であるという以外に何の予備知識もなく、読んでみたら私小説では…

長太郎

1938年、数えで38歳の時に「永住の覚悟」で故郷の小田原に引き揚げ、海岸沿いにあった「物置小屋へ以後二十年間起伏する身の上」となった川崎は、敗戦後、海軍に徴用され赴任していた父島から帰還した後、1948年10月の『新潮』に掲載された「偽遺書」を書い…

川崎 長太郎

連休中は川崎長太郎をひたすら読み続けた。 こういう時に図書館は便利である。去年とは違い、緊急事態宣言が出ても図書館が閉館にならなかったのはありがたい。おかげで川崎長太郎の小説のうち読めるものを粗方読むことができた。 彼の私小説になぜこんなに…

川崎長太郎

この連休はひたすら川崎長太郎を読んで過ごした。満腹。 現代日本文学大系49(筑摩書房) 「無題」1924年(大正13年)10月 北川健太郎。カフェの女給(お明とお安)との関係を描く。 文体に志賀直哉の影響が感じられる。 「落穂」1943年(昭和18年)6月「八…

佐伯一麦

現代作家で私小説作家を標榜する数少ない作家の一人、佐伯一麦の『一輪』、『木の一族』、『還れぬ家』を呼んだ。 どれも面白かったが、この人は、十代で家を出て電気工として働き、時には風俗店にも通いつつ青春時代を彷徨うという、西村賢太と似ていると言…

私小説

西村賢太にハマったのをきっかけに私小説にハマった。 藤澤清造、田中英光、車谷長吉、佐伯一麦などを手当たり次第に読んでいる。 すごく面白く引き込まれる作品もあればそうでもないのとの落差が激しい気がする。 ふと思ったのだが、私小説は伝統的にダメ男…

西村賢太備忘録(3)

<秋恵以後> 「膣の復讐」(『歪んだ忌日』収録)「週刊ポスト」2011年12月2日号 十月、秋恵に去られたことを思い出す。あの日以後暫く色欲は失せていたが、いよいよ寂しさの極みに立ったことを痛感した貫多は、秋恵の復讐にいつまでも屈しているこの状態も…

西村賢太備忘録(2)

<秋恵もの> 「暗渠の宿」(『暗渠の宿』収録)『新潮』2006年8月号 34歳(平成13年2001年9月)。新宿一丁目の八畳一間の「豚小屋」を出て秋恵(表記はまだ「女」)と同棲するためのアパートを二人で探すも、保証人やら収入証明やらを求められ、中々条件に…

西村賢太備忘録(1)

西村賢太の私小説を時系列に並べたメモ。個人的な備忘録で、随時訂正更新予定。 <秋恵以前> 人糞ハンバーグ或いは「啄木の嗟嘆も流れた路地」(『文學界』2020年2月号)単行本未収録 中学卒業の二日後から鶯谷のアパート住み始め、そろそろ二か月が経とう…