War Is Over

 if you want it

西村賢太

Anti-anti- natalism

つげ義春が描く世界って、退廃的に見えるけど、あの墨ベタとか塗りまくりの絵にはすごくしぶとい実存的なオーラがあって、実はものすごく、生きる、生きているってことを描いている漫画だと思う。もうどん底でボロボロに、ドロドロになりながら、こんなに悲…

Sarlet Flower

つげ先生お元気そうで嬉しい。もう終わっちゃったけど。 またやってくれねえかな。 youtu.be これはちょっとした考察というか雑感ですが、山田花子が好きでガロ系の漫画も読んでいたに違いない西村賢太がつげ義春について全く言及しなかったのは、つげを評価…

過去のどこかで

昨日は西村賢太の音楽的嗜好について考えてみたが、 今日は<漫画>について。 西村賢太の作品(主に随筆)に登場する漫画の中で一番重要なのは、山田花子だろうと思う。2008年1月5日の日記(松の内抜粋「野性時代」)に、次のような記述がある。 平成四年に…

No Novel No Life

今日のはまあ箸休めみたいなもので。 西村賢太の文学的嗜好については作家本人があらゆる小説や随筆で詳細に述べているので改めて取り上げるべきものはない。昨年に出た『誰もいない文学館』においても、まとまったかたちでの本人による解説がある。 そこで…

Bat or Swallow

私個人は、こと小説に関しては、ただ才にまかせただけの観念の産物よりも、その作者自身の血と涙とでもって描いてくれたものでなければ、まるで読む気もしないし書く気も起らぬ 『どうで死ぬ身の一踊り』跋より 私小説作家・西村賢太の命日である二〇二三年…

I Remember Kenta

『週刊SPA!』山田ルイ53世氏との対談より 僕は(芥川賞を受賞した)40代のときはものすごく元気だったんです。しかし、50代に入ると気持ちに変化が出てきた。先が見えて、今後自分の人生に劇的な変化が起こらないことも、くっきり見えてしまった。 気力や体…

Remember Kenta

いわゆる青春がないことに、さみしかったり後悔したりは全くありません。比べる相手がいなかったから。自分を「不幸だ」と感じるのだとしたら、比べてるからじゃないのかな。上をみたらキリがないもんね。ひどい目に遭い続けて、心が死んでいって、諦めて、…

Die Psychoanalyse von Kenta Nishimura

西村賢太の私小説について、エセ精神分析的にやってみる。 あくまでもお遊びなので、西村賢太ファンの方及びサイコアナリーゼを真面目にやっている方は怒らないでください。 まず「北町貫多」というネーミングについて。 この名前が、作家の本名である「西村…

NDL

朝、土砂降りの中を国会図書館へ。開館時刻の午前九時半に着くと、既に土砂降りの中を百人位の人たちが入口に並んでいた。 コロナ以前であれば、開館時間内に行けば入場できないことはなかったのだが、今は在館者数が1,000人に達した時点で入館を拒否されて…

パパが貴族

吉田豪とのYouTubeの対談を見て興味を持ち、山田ルイ53世の「パパが貴族」という本を読んでみた。 非常に面白かった。文体に明らかな西村賢太の影響を感じた。 西村は山田と2021年5月20日(木)に「週刊SPA!」の企画で対談している。このときのことを西村は…

Killing w/ Kindness

政治というのは建前の世界で文学は本音の世界だから両立させるのは無理があると思う。両立させるというのは、両方で一流の仕事をするという意味で、石原慎太郎や今東光は両立させたとはいえない。ウィンストン・チャーチルはどうなんだと言われたら、チャー…

The Honor of a Value Disruptor

石原氏の政治家としての面には毫も興味を持てなかった。しかし六十を過ぎても七十を過ぎても、氏の作や政治発言に、かの『価値紊乱者の光栄』中の主張が一貫している点に、私としては小説家としての氏への敬意も変ずることはなかった。(「胸中の人、石原慎…

西村賢太追悼文集を読んで

『西村賢太追悼文集』(COTOGOTOBOOKS)を読了。 賢太とは面識のない愛読者から付き合いのあった編集者、同業者まで、送られたもの全部載せました(既出の追悼文の転載もあり)という感じなのでゴッタ煮感があるが、それが編集の狙いで、「色んな人が好き好…

Requiem for K

「西村賢太追悼文集」(COTOGOTOBOOKS)が届いた。 これを読み終えたら、いよいよ賢太とのお別れに一段落つくような気がして、なかなか本を開けないでいる。 明日の朝までに読み終えることができるだろうか。

芥川賞と西村賢太

第167回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が20日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は高瀬隼子(じゅんこ)さん(34)の「おいしいごはんが食べられますように」(群像1月号)、直木賞は窪美澄さん(56)の「夜に星を放つ…

Drive

「週刊読書人」に西村賢太「雨滴は続く」の書評(豊崎由美と長瀬海の対談)が載っているというので買って読んでみた。 豊崎由美は西村の小説を早くから評価している人で、西村自身も何度も作品の中で言及している<西村賢太読みのスペシャリスト>である。今…

西村賢太年譜(「日乗」以前)

芥川賞を取って以降の生活は「一私小説書きの日乗」で(一部改変もあるとはいえ)作家自身により明らかにされているので、それ以前の年譜を作成してみた。限られた資料に基づくため、もちろん正確でない部分もあろうし、私小説の内容に基づく記載はフィクシ…

西村賢太著作一覧

西村賢太名義(編著含む)の著作を年代順に並べてみた。追悼集も入れた。 右横に数字を付したのは単著の発行順番。<一私小説家書きの日乗>に、見本が届いた日には必ず「・・冊目となる単著」と書かれているので、その数字に合わせた。発刊は2011年以降は<…

西村賢太小説作品(発表順)

北町貫多の私小説の舞台を時系列に並べたものとは別に、西村賢太の私小説を執筆(発表)された順番で並べたものを作ってみた。 赤字は<秋恵もの>。右の数字は<日乗>に書かれていた枚数。 1室戸岬へ(『田中英光私研究』第七輯1995年11月)単行本未収録 2…

続・西村賢太さんを偲ぶの記

昨日の記事にツイッターで言及して下すったかたがいて、けっこう見られたようなので、お別れの会で撮った写真をまたアップします。 もっと撮ればよかったな、と思いつつ、きっとそのうちどこかの記念館に展示されることになるに違いない、と思うので、そのと…

西村賢太さんを偲ぶの記

昨日のお別れ会に出席できなかったかたがたのために、配付された小冊子に載っていた貴重な写真をアップしておく。このブログの読者数なぞたがかしれているのでほぼ意味のない行為ではあるが。 ちなみに、2002年(平成14年)35歳の時に七尾図書館で講演した時…

Farewell My Dear

朝信号待ちをしていると立て続けに青い護送車が二台目の前を通り過ぎた。 今日はメルパルク・ホテルで西村賢太献花のお別れの会があるので行こうかどうしようか直前まで迷っていたが、阿部公彦教授のツイートでゆかりの品も展示されるというのを見、「ビバリ…

Yellowed Handwriting

黄ばんだ手蹟(『文學界』2018年1月号) 「陋劣夜曲」(『群像』2018年1月号)の下書きを終えた2017年11月21日の深夜の場面から始まる。ほっとして部屋にある清造の額を眺めていると、18年ほど前に作った扁額の中の書簡がずり落ちてしまっているのに気づく。…

Photographs

このところ自分でも意味の分からないままに熱中していた、西村賢太の日記(一私小説書きの日乗シリーズ)の抜粋を打ち込むという作業をようやく一通り終える。この間も毎日西村賢太についてブログに記事を書いており、ほとんど「寝ても賢太、覚めても賢太」…

なぜ藤澤清造なのか?

やがて彼は帰って来た。……五百枚にあまるその作を大切に抱えて…… われわれはほとほとその努力に感心した。…ということは、何のあてもなく、かれはその作を書いたのである。どこに掲載してもらえるあても、どこで出版してもらえるあてもなしにかれはその長編…

「野狐忌」2

1993年に西村が参加した田中英光展を主催したという「いわゆる無頼派作家の研究サークル」というのは、1990年に朝日書林から「仮面の異端者たち : 無頼派の文学と作家たち」という本を出版している「無頼文学研究会」という団体のことではないか。但しこの催…

「野狐忌」

西村賢太「田中英光私研究 第八輯」に収録された小説「野狐忌」は、今振り返ると、西村の生涯の一つの時期が終わる直前に書かれた、文字通り記念碑的な作品といえる。 この小説で最も重要な部分は、最初のほうにさりげなく書かれた箇所で、西村はたぶんその…

「室戸岬へ」3

もう一度問うてみる。西村賢太にとって田中英光とは何だったのか。 中学生のころからマニアックな探偵小説を読み耽り、いずれ小説家になりたいとの思いをふとこっていた少年が、田中英光の小説と出会って、異常な衝撃を受け、「ぼくの人生観は変わった」とま…

「室戸岬へ」2

私小説である以上、主人公の今の境遇というものが大切な問題になってくる。 <ぼく>は、高知で最初の夜に入った居酒屋で、偶々一緒になった客から仕事について尋ねられ、東京の神田で古本屋をやっていると答える。小説の初版本を売って食っているが、店はな…

「室戸岬へ」

この小説は、先にも書いた通り、田中英光の「室戸岬にて」という小説についての取材旅行記という形を取っている。 当時「田中英光私研究」という小冊子を発行していた西村は、精力的に全集未収録の英光作品を発掘、解題し、英光の旧友・関係者から聞き書きを…